第35話 5対1
戦いが始まった。
マナとバルザックの2人でロストマグナに近接戦闘を仕掛け、リエナは遠距離から黄金剣の斬撃で2人の援護。
そして俺は遠くで電撃を溜めて、完了次第隙を見て放つ。
念の為アルスさんが俺の前に立って、俺を守っている。
事前の話し合いで決めた戦い方だ。
電撃はすぐには溜めない。徐々に力を込めていく。
バレたらダメだ。気づかれないように少しずつ。
そうしながらロストマグナの動きを見る。
あいつは多対一の戦闘に慣れているのか、3人の攻撃を華麗に捌いて、カウンターを放っている。
マナの攻撃を片手で受け止めて、空いた手で攻撃する。だがマナは身体が小さいゆえか身軽で、カウンターを難なく避けている。
バルザックの大剣の振り下ろしには拳で剣の軌道を逸らしているか、普通に避けている。これもその後にカウンターを放っている。
バルザックは大剣を持っているせいか、時々攻撃をくらってしまっている。が、タフなのか、少しよろめくだけですぐに立て直している。
リエナの斬撃は躱わすか、弾いている。
彼女とは距離が離れているため、カウンターはできない。
…恐ろしい奴だ。
俺の電撃も易々と対処するのではないかと思う。
いや、今はそんな事を考えるな。
俺はあいつの頭に電撃を当てる。
それだけに集中しろ。
対処されたら、別の方法を考えろ。
あとはあそこにいる鎧の…ボルドスだったか。
戦いが始まってもまだ柱にもたれかかっている。
ロストマグナが言った通り、あいつは戦いに参加しないのだろうか。
しないのなら、その方がこっちとしては嬉しい。
ただ少し、あいつは不気味な気配を感じる。
「…!」
そう考えているうちにようやく力が溜まった。
準備完了だ。
「…できました」
俺の前に立つアルスさんに小声で伝えた。
アルスさんは何も言わずにこちらを見ると、コクリと頷いた。
カン
アルスさんは手に持っていた剣で、盾を一回叩いた。
これは合図だ。
準備が完了したという合図だ。
マナとバルザックが一瞬だけこちらを向いた。
だが2人は攻撃を続けた。
あくまでこれは準備完了の合図であって、発射の合図ではない。
発射の合図はない。俺のタイミングで決める。
2人は合図がなくても避けるからと話し合いの時に言っていた。
それに俺も、2人に当たるような時には撃たない。
見極めろ。外すな。当てるんだ。
「…ふぅ」
深呼吸を一回。
左腕をまっすぐ伸ばし、ロストマグナに向ける。
右手で左腕を支えて、狙いを定める。
狙う場所は頭部。
もう一度深呼吸。
そして。
ズドン!!
紫の電撃が、轟音と共に放たれた。
電撃はそのまま一直線に、狙った箇所へ向かった。
マナとバルザックがすぐさまロストマグナから離れた。
ゴン!!!
鈍い音がした。
ロストマグナの頭部が激しく揺れた。
当たった。
…が貫けなかった
ロストマグナは何事もなかったかのように立っている。
そしてギロリと鋭い目で俺を睨んだ。
貫けなかったとしても、脳震盪ぐらいは起きてるはずだ。
だが、こいつは平気で立っている。
ほんとうになんなんだこいつは。
「おまえ、その力…どこで。教えろ。まさかお前のところにも…」
ロストマグナの声が少し震えているような気がした。
俺はマナの方をチラリと見た。
彼女は俺と目が合うと、コクリと頷いた。
目線をロストマグナに戻す。
「…これは、お前の配下と戦った後に持っていた。理由は知らない」
バルザックはそれを聞くと、少し考え込んだあと、「ああ…」とため息混じりに言った。
「どうりで一本足りなかったわけだ。処分用を持っていきやがって」
イラついてるのか、地面をドンドンと踏んでいる。
「…まさか能力持ちとはな。幸運だなお前」
能力持ち?どういう意味だ。
「まあ、いい」
突然、ロストマグナの右手が紫のオーラのようなものを纏った。
まずい、これは。
「全員集合!」
すると、マナが叫んだ。
それと同時に俺たちはマナの方へ駆け寄った。
「決して離れないで」
マナはそういうと、パチンと指を鳴らした。
3枚の結界が現れた。
三重結界だ。
「またそれか。今度は耐えれるか?」
バルザックは両足を大きく開き、身体を捻った。
拳のオーラがどんどんと大きくなっていく。
そして。
「破滅衝撃」
ロストマグナが拳を放った。
拳から放たれた衝撃波が、爆音と共に俺たちに襲いかかる。
だが、それをくらうことはなかった。
マナの発動した三重結界は前回よりも結界の強度を高くしたのか、一枚も破られることはなかった。
「ほう、なかなかやる」
ロストマグナは笑っている。
まだまだ余裕がありそうな感じだ。
「どうする? マナ」
「そうね…イズミ、今度はさらに強く撃ってちょうだい。
それとアルス、結界を解除したら今度はあなたも───。
その時だった。
「破滅斬撃」
紫の何かが、結界の中を疾った。
それと同時にパリン、と結界が3枚割れた。
結界の破片は地面に落下すると、風に流される砂のように、サァ…と消えた。
先程の何かが来た方向を見ると、そいつはどこから取り出して来たのか、剣を持っていた。
「手伝いますよ。ロストマグナ」
「…ボルドス」




