第34話 火蓋
深夜になり、俺たちは指定された場所まで向かった。
月の光が思っていたより強く、火の灯りがなくても周囲の景色が問題なく見える。
着いた場所は遺跡だった。
ここはなんでも大昔、重要な儀式を行う際に使われていた場所らしい。
しかし、今はもう使われていないせいか、ほとんど崩れている。
天井と壁はもう無い。
残っているのは、儀式を行う為の大きな祭壇場と、遺跡の外に建てられていた8つの大きな柱だけだ。
祭壇場に上がると、ロストマグナが腕を組んで立っていた。
ーーー
少し前のこと。
「わるい。もう一回言ってくれねぇか?
なんだっけその、カタス、カタ…」
「破滅衝撃よ」
「ああ、それだ。その技は絶対に気をつけなきゃいけないんだったよな?どうしてだ?」
「私の三重結界を破ったからよ」
マナがそう言うと、アルスさんが驚いた。
「本当か? 三重結界を?」
すると、バルザックが眉をひそめた。
「なんだ、その三重結界ってのは」
「マナのオリジナル魔術だよ。
三重結界はその名の通り、3つの結界を張る魔術さ。
1枚目は物理防御に特化した結界。
2枚目は魔術防御に特化した結界。
3枚目はその両方を兼ね備えた結界さ。
この結界は1枚だけでも破ることはほぼ無理さ。結界の強度は、発動時に使われた魔力の量で決まる。彼女の莫大な魔力量なら、どれほどの強度かは想像できるだろ?」
「なるほどな」
あの結界そんなに凄いものなのか。
あの時あれがなかったら、俺とマナは死んでいたかもしれないな。
「イズミ。ちょっといいかしら?」
するとマナが立ち止まった。
「どうした?」
「恐らくロストマグナは、あなたが謎の力を持っていることを知らない。つまり…」
「不意打ちができるってことか?」
「そういうことよ。
いい? あなたは戦闘が始まったらバレないように力を溜めなさい。そして、ここだっていうタイミングでロストマグナに撃ってちょうだい。
できれば頭か心臓を狙ってくれると嬉しいわ」
「うまくいくか…?」
「…そうなるように頑張るしかないわね」
ーーー
「来たか。ではさっそく始めるか」
ロストマグナが構えた。
「その前に聞きたいことがあるわ」
マナが前に出た。
ロストマグナは構えを解き、頭をポリポリとかいた。
「なんだ?」
「なんでテラスを殺したの?」
「…言わなきゃいけないことか?」
「言え」
その一言で、ロストマグナの表情が険しくなった。
鋭い眼光でマナを睨んでいる。
「……アイツが裏切り者だからってのはあるが……これ以上見たくなかったからだ。
アイツはな、昔はあんなやつではなかった。
常に冷静沈着で、実力は俺よりも…そこにいるボルドスよりも上だった」
ロストマグナが顎をクイッと横に向けて動かした。
動かした方向を見たが、柱があるだけで誰もいない…いやいた。
暗くてすぐには分からなかったが目を凝らしてみれば1人誰かがいるのが見えた。
濃い紫色の鎧を身につけた者が1人。柱にもたれかかって立っていた。
はじめまして、という風にこちらに手を振っている。
「今回は仲間を連れてきたってことね」
「アイツはお前たちとの戦いには参加しない。気にするな。
話を戻すぞ」
俺はロストマグナの方へ視線を向き直した。
「アイツ…テラスはあの戦い以降、臆病に、そして弱くなった。俺ごときに殺されるほどにな。
長い間、各地を転々としてあの男から逃げ続け、そして何をとち狂ったのか、そこにいるガキを異世界から呼び出した。
…これ以上見たくなかったんだ。アイツの変わり果てた姿をな。だから殺した」
「……」
「以上だ。これで満足か?」
「ええ、それで結構。それじゃあいくわよ」
マナが構えた。
それと同時にロストマグナも構えた。
「いつでもこい」




