第32話 役
「椅子に座ってくれ。話をしよう」
男はそう言うと、空いている椅子に向かって手を向けた。
俺はその椅子に座った。
「さて、どう話そうか…」
俺はここがどこか、あなた達は誰なのか、などいっぱい聞きたいが、まずは相手の話を聞くことにした。
男は少し悩んだ後、「よし、これにしよう」と言って、俺の方を見た。
「おめでとう。君は世界を支える役に選ばれた」
「役?」
いきなり何を言っているのか分からなかった。
世界を支える?役?何のことだ?
どうゆうことか悩んでいると、女が男に話しかけた。
「普通に伝えてあげてください。
彼はか───」
「待て待て待て」
女が何かを言おうとした途端、男が慌てて遮った。
「こういうのは少し変わった言い方で伝えるのが面白いんじゃないか」
「相変わらずめんどくさいですね。あなたは」
「そういう君はつまらん」
なにやら喧嘩が始まりそうな雰囲気だ。
質問ができる状態ではないな。
「それに今は全てを教える気はないよ。
彼はまだ、それをする時ではないからね。
なら、後のことはまた次に呼んだ時でもいいじゃないか」
男がそう言うと女は何も言わずに黙って彼の方を向いた、
「何も言わないということは、分かってくれたと受け取るよ。
すまないね、和泉仁君。話が逸れてしまった。
先ほど言ったとおり、君は世界を支える役に選ばれた。けど今は、その役をしてもらう時ではない。いつになるかは…すまないが私の方でも分からない。
今伝えれるのはこれくらいかな」
うーん。まぁ少しは分かったが、その役が何なのかは気になるところだ。世界を支える役…いったいなんのことだろう。
具体的に言わないということは、それもまだ伝えられないということか。
いやそれよりも。
「すみません。あなた達は何者ですか…?」
「うーん、すまないね。それもまだ言えないよ。
次会えたときには教えるよ。まあ、その次がいつかも、まだ分からないんだけどね」
男がそういうと突然、女が口を開いた。
「分からないことだらけじゃないですか」
「うるさいな。他の者たちにも同じようにやったんだ。
別にいいじゃないか」
「全くあなたは…。ごめんなさいね和泉君。詳しいことはまた今度で」
「あぁ…はい」
なにがなんやら分からないな。
「さて、もう少し話したかったが予想よりも早く、君の仲間が来てしまったようだ。
起こしてあげよう」
男がそう言った次の瞬間、視界が真っ白になった。
そして身体が宙に浮いたような感じがした。
と思ったら今度は後ろに引っ張られるような感覚が起きた。
ーーー
「彼に能力のことは話さなくてよかったんですか?」
和泉仁がいなくなったその後、女は男にそう言った。
男は椅子から立ち上がり、答えた。
「別にいいさ。重要な事でもないからね。
それに私が教えなくても、能力について知る事はできる。
アルメリアスには彼と同じ覚醒者が3人いるからね。
ロストマグナ君なら教えてくれそうかな」
「彼とあの子は敵同士ですよ」
「そうだね。でも和泉君が頼めば、教えてくれるはずだ。
でも『俺に勝てたらな』とか言いそうだけど」
男はクスクスと笑った。
「いやあ、それにしても彼はじつに幸運だ。
死んだ状態から覚醒者になり、能力を得た。彼の待つ能力は当たりの部類だ。
そしてさらには『 』になることに選ばれた。
私は、彼の運の良さに賞賛を送ろう」
「その運も終わりでしょうね」
「…なぜそう言える?」
男はチラリと女の方を見た。
「彼はもうすぐでロストマグナと戦います。そして負けます。
いくら能力を持っているからと言って、あの修羅の世界を生き抜いたロストマグナ…そしてボルドスには勝てません」
「それはあいつが関わらなかったときの話だろう?
断言する。彼はロストマグナに勝つ」
「そうですか。ところで、アルメリアスの観賞はまだしますか?」
「いや、決戦の日が来るまでは『ロルカトス』を観賞する。
あそこ、そろそろ移動要塞惑星の封印が解けそうだとかで、てんやわんやしているよ。君も観るかい?」
「後にしておきます」
「そうかい。じゃあ私は先に部屋に戻っているよ」
第4章 黄金騎士 完




