第31話 紫電と白い空間
キキトト大森林のとある場所。
そこには死体を眺める2人の子供がいた。
「あっさりと終わっちゃったねー」
「そうだねー」
レトとラトは血のついたナイフを拭きながらため息をついた。
2人が眺める死体の人物はイズミジン。
彼はなす術もなく、彼らに殺された。
イズミの身体には沢山の切り傷があった。
首、胸、腹、腕、足。至る所から血がこぼれていた。
血を拭き終えたレトはナイフをしまいながら言った。
「もうちょっとやりがいのある奴を殺したかったな〜。
雑魚を殺してもつまんないよ」
「…じゃあさ、これを試してみようよ」
ラトはそう言いながら、ポケットの中からある物を取り出した。
取り出したのは小指サイズの瓶だった。
中には翠玉色の液体が入っていた。
それを見たレトはやや眉をひそめた。
「死んだやつに飲ませても意味ないだろ」
「ロストマグナ様が言ってたよ。
死んだ人がこの力によって生き返った例がいくつかあるって」
「確かに言ってたけど、それって結構確率は低いって話だろ。
ていうかそれ盗んだのか?バレたら殺されるぞ」
「大丈夫だって。もう使わないって言ってたし、1個くらいなら許してくれる」
そういうとラトは瓶を開け、中の液体を強引に、イズミの口の中に入れた。
「成功すればラウンド2だ。今度はさっきよりもいっぱい切り刻もう」
「ったく」
液体を全部入れた後、2人は少しだけ死体から離れた。
そして待つこと1分。
イズミに変化はなかった。
2人は顔を見合わせ、そして歩き出した。
「失敗かー、残念」
「しょうがないさ。諦めて他の奴らと合流しよう。
ここから近いのは確か…」
その時だった。
彼らの後ろで、何かが動く音がした。
2人はその音に反応して、後ろを振り向いた。
そして音の正体を見た瞬間、ラトは笑顔に、レトはやや驚いた顔をした。
イズミジンが立っていた。
右手に刀を持ち、俯いたまま立っていた。
先程まであった沢山の切り傷はなかった。
「マジか!」
「やったやった! これでもっと楽しめる!」
レトとラトは短剣を抜いた。
「一二の三でいくぞ」
「分かった」
体勢を低くし、狙いを定める。
「一、二の三!」
「一、二のさ───
飛び出す瞬間、ラトの声が途切れ、レトは思わず動きを止めた。
そしてラトの方を見た。
映ったのはゴロゴロと転がるラトの首と、ドサっと倒れる首のない身体。
そして先程まで目の前にいたはずのイズミがラトの隣にいた。
「なっ…!」
レトは飛び下がり、距離をとった。
「こいつ…一瞬で!」
もう一度体勢を低くし、力をいれるレト。
(俺の首も斬らなかったのは甘かったな!
来るなら来い! 躱して反撃してやる!)
構えるレト。
だがイズミの次の行動で、彼の反撃という考えは止まった。
イズミはレトの方を見ないまま、左手を彼に向けた。
バチン!
その瞬間、イズミの左手が一瞬だけ僅かに光った。
そしてドオン、という音と共にイズミの左手から紫電が放たれた。
紫電はレトの腹部を貫き、そのままレトの後方にあった木々も貫いた。
(なんだ…これは…!?)
血を吐き、倒れるレト。
「……」
イズミはレトとラトの身体が石になるのを見ると、立ったまま気を失った。
ーーー
気がつくと白い空間に立っていた。
どこを見渡しても白。
一面真っ白の空間。
ここは死後の世界だろうか。
俺は死んだということか?
落ち着け。
落ち着いて何があったか思い出せ。
確か俺は変な2人組の子供に襲われて、そしてナイフで切り刻まれて…そして最後には首を斬られて…死んだ。
それでその後起きて…2人を倒して…ん?
俺は死んだ。でもあの2人を倒した記憶がある。
確か俺の左手から紫の…んんん??
頭が混乱する。
一旦思い出すのはやめよう。
まずは今の状況に集中しよう。
とは言っても、本当にここには何もない。
どこだここは。
…じっとしてるわけにもいかないな。
歩くか。
ーーー
歩き始めてから5分。
まだ景色は変わらない。
歩き始めてから15分。
相変わらず真っ白だ。
ここがもし死後の世界だったら嫌だな。
一生ここにいることになるのだろうか。
生まれ変わりとかできるのだろうか。
歩き始めてから30分経って、それは聞こえた。
チリン、チリン、と鈴のような音が響いている。
音が鳴った方向を歩いてると、遠くの方に何かが見えた。
遠すぎてハッキリと分からないが、何かいる。
それがハッキリと見える距離まで近づいた。
それは人だった。
男と女が2人、椅子に座っていた。
彼らの前には茶色の丸いテーブルが置かれていた。
女はこちらに気づいたのか、じっと俺の方を見ていた。
男の方は何をしているのだろうか。水晶玉を手に持ったまま、それを凝視していた。
今、俺はその2人を人と言ったが、よく見ると人ではないのかもしれない。
男の方は黒のタキシードを着ていて、背中から黒い翼が生えていた。コウモリのような翼だ。翠玉色の瞳、黒のショートヘア、座っているので詳しくは分からないが恐らく身長は180cmはある。
女の方は西洋の貴族が着ていそうなドレスを着ていた。
赤い瞳、金髪の三つ編み、身長は隣の男とほぼ同じに見える。そして、天使のような翼が6つあった。
「来ましたよ」
女が男に話しかけた。
だが、男は話しかけられたことに気づいておらず、まだ水晶玉を見ていた。
「来ましたよ!」
女がさっきよりも大きく、そして若干怒っている感じのような声で、男に話しかけた。
男はようやく俺に気付き、慌てた様子で水晶玉をテーブルに置いた。
「やあ、初めまして。
えーと、確かー、…あ! 和泉仁君だったね」
男は何故か俺の名前を知っていた。
初対面のはずなのに、なぜ?
「椅子に座ってくれ。話をしよう」




