第30話 薬
ロトスはひたすらに逃げていた。
自分を追いかけてくる白髪の少女、最強と名高い魔術師マナギスタから。
アルテメトを装備した後のマナは驚くほどに戦い方が変わった。
少女とは思えないほどの怪力。そこから繰り出される強烈な一撃。
まさに鬼神。
力、スピード、体力。全てマナが上であった。
体格差など彼女の前では無意味だった。
そしてロトスの両腕は彼女の攻撃で既に砕け散っていた。
「ウオォォォォォアァァァァァァ!!!」
獣のように吠えるマナの声が大森林に響き渡る。
マナは地面を強く踏み抜き、一瞬でロトスに近づいた。
右手を強く握り正拳突きを繰り出す。
ロトスは咄嗟にガードしようとするが、自身の腕はもう無いことを忘れていた。
ロトスの胸に強い衝撃が走った。
骨が砕ける音が響き、ロトスは血を吐いた。
そして遠く吹き飛び、地面に転がって倒れた。
(こいつ、いくらなんでも強すぎる!)
ロトスはボロボロになった体を無理矢理動かして起き上がった。
しかし足が震え、バランスを崩して膝をついた。
体力の限界が来たことを感じ、負けを悟る。
もし自分が魔族であれば。と思った。
魔族であれば再生能力で、無くなった腕やボロボロになったこの身体を治せるというのに。
「もう終わりかしら?」
「ええ、はい。この状態では戦闘など無理ですから」
「そう。一つ聞きたいのだけれど、失敗作って何?」
マナの問いにロトスは少しビクッと体を動かした。
少しゴモゴモと口を動かした後、マナの問いに答えた。
「私…いえ私たちはロトスマグナ様にある薬を飲まされたのです」
「薬?」
「はい。その薬がなんなのかは分かりませんが、それを飲まされた瞬間、私の全身に炎に焼かれたような痛みが起きました。
そして気づけばこの体に。一応、私とケマガは元の姿に戻すことが可能でしたが」
ロトスが話していたその時、彼の足が石に変わり始めた。
「…この情報もあなたにとって知られたくないものなのですか。
この姿になった時、私は超人的な肉体を得ました。他の者もそうです。
最初この薬は、飲んだ者の肉体を大幅に強化する、という物と思っていましたが、そうではなかったようです。
なぜならロストマグナ様はただ一言「失敗だな」と言ったからです」
どんどんとロトスの体が石になっていく。
それは腰にまで到達し、完全に石になるまであと十数秒程だった。
「そろそろ終わりですね。
質問はありますか?」
「他にもあるけど、そんな時間はもうなさそうね」
「そのようですね。では」
ロトスの体は石になった。
そしてボロボロと崩れ始め、地面に落ちた。
(薬…)
マナはロトスが言った薬がなんなのか、自身の記憶を頼りに該当する物を探していた。
だが見つからなかった。
肉体を強化できる『肉体強化薬』ならあるが、肉体を怪物のように変化させる物など見たことも聞いたこともない。
マナは、その薬はロストマグナが作った独自の薬ということにした。
その薬を使って何をしようとしていたのかは疑問に思うが、今はイズミ達を探さなければならない。
その時、遠くから音が聞こえた。
雷のような音だった。
「誰かが戦ってる?」
マナは音のした方向へ向かった。
ーーー
マナ、アルス、バルザック、リエナは襲ってきた敵を倒し、今は逸れた仲間を探しに大森林を走り回っている。
残るは和泉仁。
が、彼は死んだ。
レトとラトとの戦闘で彼は敗北し、殺された。
その後の出来事だった。
2人のちょっとした好奇心で思いもよらぬことが起こった。
それはロストマグナにとっても。




