第27話 アルスVS蛇竜
アルスは洞窟に飛ばされていた。
いや、洞窟というより巣と言った方が正しいであろう。
彼の目の前には1匹の魔物がいた。
『蛇竜』である。
彼が今いる場所は蛇竜の巣。
蛇竜とはその名の通り、蛇のような姿をした巨大な竜のことである。
鋭い牙と硬い鱗を持っているのが特徴だ。
「───。」
唸り声をあげながら蛇竜は巣に入ってきた侵入者を鋭い眼で睨みつける。
アルスも同じく蛇竜を睨む。
目線は逸らさない。
逸らせば相手は襲いかかってくる。
睨み合いの状態にして、思考する時間を稼ぐ。
(さて、どうしようか)
アルスは悩んだ。
この敵をどうやって倒すか、と。
勝てないわけではない。
蛇竜とは何度も戦ったことがある。いずれも余裕の勝利だ。
では何故悩むか。
理由は場所。場所が悪すぎること。
今彼がいるのは洞窟。
蛇竜に暴れられたら崩落の危険がある。
それに─
(暴れられる前に一撃で斃す必要がある。
豪剣なら一刀両断できるけど、洞窟も両断してしまうな)
豪剣は剣爺九ツ剣で唯一の魔剣ではない剣。
ただひたすらに鋼を打ち、鍛え、それを何ヶ月も行い完成した、究極の刀身を持つ剣。
この剣の前では鉄や鋼など紙切れに等しい。
昔、剣爺が鋼の鎧を使って豪剣の試し斬りを行った際(外で)、自身の家も斬ってしまったという話がある。
つまり、今ここで蛇竜を斬ってしまうと洞窟も斬ってしまい、崩落して生き埋めになる可能性がある。
アルスはこの剣の凄さに笑うしかなかった。
「───!」
蛇竜はさらに唸りをあげた。
(来る!)
アルスは構えた。
だが斬ることはできない。
(やってみるか…)
アルスは一つの考えを思いついた。
これは普通の者であれば考えもつかない。考えたところでそれを実行する勇気はない。
アルスは豪剣を抜いた。
「───!!!」
それと同時に蛇竜が動く。
ぐわりと口を開き、アルスに襲いかかる。
(今だ──!)
アルスは走った。
避けるでも攻撃でもなく、走った。
蛇竜の口に向かって。
蛇竜も驚いたことだろう。
相手が自分から食べられに来るとは予想もできない。
そのままバクリとアルスは喰われた。
「───。」
蛇竜は困惑した。
何故この者は喰われにきたのか、自暴自棄にでもなったのか。
だが、そんな考えは数秒で消えた。
もう終わった事だ。
巣に戻り休むとし──
「───!?」
突然、蛇竜の体…胸の辺りから激痛が走った。
灼熱の痛みと斬られた感触。
体の中で何かが暴れている。
まさか。と思う蛇竜。
次の瞬間、胸が内側から切り裂かれ、大量の血と共に1人の人間が飛び出した。
その人間は血まみれであった。その血は全て蛇竜のもの。
人間は左手に大きな何かを持っていた。
それはわずかに脈を打っていて、血がドバドバと出てきていた。
蛇竜はそれを見てあれがなんなのか理解した。
"あれは心臓だ。
初めて見るがあれは自分の心臓だ。
あの時人間は死ぬ為に喰われに行ったのではない。
心臓を狙いに自ら喰われにいったのだ"
「──。」
蛇竜の視界が歪み、意識が消えゆく。
体を支える力が抜け、そのまま倒れる。
最後に蛇竜が見たのは、地面にできた血の海であった。
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「よかったぁ…」
アルスは安堵の声を漏らす。
一か八かの危険な行動。
自ら喰われにいき内部から心臓を抉り取って斃す。
運が悪ければ死んでいた。
「さて、皆を探しにいかないと」
"成功したし気にすることでもないか"と心の中で思い、アルスは出口を目指して走った。
余談だがSランク冒険者になる為には、単独でのAランク任務の遂行を3回行う必要がある
その後冒険者ギルドがSランクを与えるかどうかの話し合いをし、その結果によって決まる。
現在、Sランク冒険者はたったの3人。
その中で唯一純粋な剣術のみでSランク冒険者になった男、アルス。
彼を知らない冒険者など1人としていない。
 




