第24話 黄金騎士と出会う
「寒い…」
身体を震わせながら心の声を漏らす。
冬の季節ではないし、この時間帯は半袖でも大丈夫だろうと思った俺がアホだった。
一緒にいるバルザックは寒くないのか、それとも我慢しているだけなのか平気な顔をして歩いている。
現在の時間は午前7時。
俺はバルザックと一緒に冒険者ギルドへと向かっている。
昨日宿に戻った時、バルザックに訓練を手伝ってほしいと頼んだ。
バルザックは二つ返事で了承してくれた。ありがたい。
どういった訓練をするかは彼に任している。
「思ったんだけどよ、イズミの世界ってほんとに魔力がないのか?」
突然、バルザックが話しかけてきた。
「ないよ。そんなのは漫画やゲームの中だけ」
「げえむ?」
「娯楽の一つだよ。
そういえば、バルザックって俺と初めて会った時、魔力が無いって言ったよな?あれってどうやって分かったんだ?」
「ああ、魔力眼だよ、魔力眼
マナの知り合いの婆さんも持ってたやつだぜ」
バルザックは左眼を指差した。
魔力眼…。話からすると多分、相手の魔力を見ることができる眼って事かな。
なるほど、それで分かったのか。
ーーー
冒険者ギルドの中に入る。
受付の準備をしている職員とテーブル席で雑談している冒険者が数人いた。
受付の開始は1時間後だが、中に入れるのは午前7時からだ。
しかし、7時から仕事の準備とは職員さん達は大変だな。
…社会人になったらできればホワイト企業に勤めたい。
そんなことを考えてる内に訓練場に着いた。
ここはまだ誰も利用していない。
一番乗りというわけだ。
「ほらよ」
バルザックは隅に置かれていた木剣を投げ渡した後、木でできた大剣を取り、それをブンブンと振り回した。
何か嫌な予感がする。
「…どんな訓練をするんだ?」
「そんな難しい事はしねぇよ。大丈夫さ。
けどイズミ、元五大魔将軍のオレとやるんだ。
多少骨が折れる覚悟をしておけよ」
ーーー
痛い。コンクリートに叩きつけられたような痛みが全身にジンジンときている。
いくらなんでもやりすぎだ。
加減してくれ加減を。
「わりぃ…ちとやりすぎた」
地面に蹲っている俺を見下ろしながら、やや申し訳なさそうにバルザックが謝った。
バルザックとやった訓練。いや一方的なイジメと言っていい。
最初はただの剣の打ち合いだったが、バルザックが楽しくなったのか途中から体術…打撃や蹴り技を使ってきやがった。
一応反撃はした。
だが全てことごとく受け流された。
途中で他の冒険者もギルドへと入ってきて、俺たちの事を見ていたが、普通にドン引きしていたし、止めに入ろうか悩んでいた者もいた。
「いやまあ、これでお前も分かっただろ。強い奴と戦うのがどれほど苦か。今回の事を参考にして、まあそのなんだ、頑張ってくれ!」
バルザックはそれっぽい事を言いながらごまかそうとしている。
俺はそんな慌てふためく彼を冷たい目で見つめる。
「ほんとにわりぃ。今日の昼飯奢るからそれで許してくれ」
「…上手い店にしてくれよ」
ーーー
昼食を済ませて、宿へと戻る。
明日はゴドウさんの所で武器を貰って、その後は色々と準備をした後次の所に行く予定だ。
といってもその次の所はまだ決まってないけどな。
つまり、しばらくはここで滞在ということだ。
「お、新刊もう発売されてたのか」
バルザックが立ち止まった。
視線の先には本屋。そしてそこには沢山の人だかりができていた。
何やら皆、我先にと本を取っていた。
「なんだあれ?」
「超人魔大決戦だよ」
「チョージンマタイセン?」
「有名な小説だ。タイトルは子供向けっぽいが、内容はめちゃくちゃ奥深いぜ」
気になるな。
俺はそう思い、本屋へと向かう。
その超人なんちゃらという小説が置かれている棚を見ると、『最新刊の20巻発売。再入荷未定の為、ご購入はお早めに』という札が置かれていた。
さて、これを買うか買わないか。
内容を知らないまま最新刊を読み、その後1巻から読み始めた場合、先の展開を知っているので面白さがやや少なくなる。
そういうのは避けたい。
それに、俺は読んだことのない漫画や小説を買う時は1巻から最新刊まで全部買ってから読む派だ。
できれば1巻から19巻も買いたいが、売り切れと書かれている。
やめておくか?
いや。再入荷未定と書かれているし、次いつ20巻が買えるのかは分からない。
やっぱりここは買うべきか?
「…あ」
気づくと残り1冊のみになっていた。
早く決めないと誰かに取られてしまう。
(仕方ない)
俺は最後の1冊を取ろうとした。
隣にいた人と同時に。
「あ」
「え」
手と手が触れ合い、思わず引っ込める。
そして隣にいた人と目が合った。
隣にいた人は金髪のポニーテール、綺麗な青い瞳をした女性。
そのあまりの美しい顔に思考が一瞬止まるかと思った。
そんな美しい顔の次に目立っていたのは長い耳だった。
この人はエルフだ。
初めて見る。
「すまない」
彼女は、どうぞと言うように、本に手を向けた。
「いえ、そちらがどうぞ」
俺も彼女と同じように、本を譲る。
お互いに譲り合いの状態。
こういう状態は少し苦手だ。
自分が取ったら、相手に気を遣わせたと、後々後悔しそうだからだ。
「あれ、リエナじゃねえか久しぶりだな」
するとバルザックが袋を手に持ったまま、女性に話しかけた。
多分袋の中身は『超人魔大決戦』だ。
いつのまにレジに並んでいたんだ。
「知り合いか?」
「ああ、数年前にな。名前はリエナだ」
「久しぶりだなバルザック。そのゴツゴツした身体は相変わらずだな」
彼女、リエナはバンバンとバルザックの胸を叩いた。
親友の様な距離感だ。
「ところでこの人は?」
「こいつはイズミジンだ。オレの知り合い」
「初めましてリエナさん、和泉仁です」
「初めましてイズミジン。私の名はリエナ•パーシズムだ。
リエナで良い」
お互いに握手をして、自己紹介をする。
「さて、この本は君が先だった」
リエナは最後の1冊を俺に手渡そうとした。
「いや、俺はバルザックの方を読むよ。
そっちが買ってもらって問題ない」
「…そうか。すまないな。この恩はいずれ返そう」
恩って。
そこまで感謝されることじゃないんだけどな。
ーーー
「なるほどなるほど、それで君達は旅を」
宿に戻る途中で、バルザックとリエナは会話をしていた。
会話の内容は今何をしているのかというものだった。
リエナはどうやら叔父の頼みで『超人魔大決戦』の最新刊を購入しに来たそうだ。
いろんな国を回っていたそうだが、どこもかしこも売り切れ、それでこんな遠い国まで来てしまったらしい。
その後バルザックは俺達の話をした。
ロストマグナという男を捜索、途中でそいつの手下と戦闘等々。
「所でリエナ、お前はこのまま帰るのか?」
「いや、宿を取っている。一泊したら国へ帰る」
「そうか、またどこかで会おうぜ」
「ああ」
そんな会話をしながら俺達はリエナと別れ…なかった。
どうやらまだ一緒の道を歩くらしい。
俺達が泊まっている宿を見つけた。
今度こそ別れ…なかった。
まだだそうだ。
宿の前へと着いた。
リエナと一緒に。
「「「……」」」
どうやら一緒の宿に泊まっていた。




