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第21話 都市ウートル


 「よーーし! ようやく着いた!」


 バルザックが両腕を豪快にあげ、身体を真っ直ぐ伸ばした。

 俺たちは今、サハカ国の北部にある都市『ウートル』にいる。

 この都市はサハカ国三大商業都市の一つで、各国から沢山の商人が訪れる。

 そしてここから少し離れた場所に港がある。そこには沢山の商船があるそうだ。

 

 「さて、まずは宿ね。

  早めにとっておかないと、部屋が埋まっちゃうわ」

 「それなら、私がやっておくよ」

 「ん、ならお願いね、アルス。

  それじゃあ私たちは武器でも買いに行きましょう。と言ってもイズミのだけど」


 マナは俺の方をチラリと見た。

 確かにマナとバルザックは武器を買う必要なんてない。

 マナは魔術師だし、バルザックはなんかゴツい大剣持ってるし。

 対して俺のはカレマ町で買った普通の剣だ。

 もう少し良い剣に買い替えたほうがいい。


 「そんじゃ行くか」

 「ええ、行くわよ」

 

 2人は歩き出した。

 マナは左に、バルザックは右に。


 「「ん?」」


 2人は数歩歩いた後立ち止まり、お互いを見た。


 「おいおい、逆だぜ。こっちだぞ」

 「それはこっちのセリフよ」


 なにやら喧嘩が起きそうな雰囲気だ。

 

 「まさか『クラレス』に行こうとしてるのか?」

 「もちろんよ」

 「ダメだダメだ、あそこは品揃えはいいが質が普通すぎる。

  オレが今から行く所は最高級の武器を作ってくれるぜ」

 「そっちの方向にそんな店があるなんて聞いたことないわよ」

 「それはお前が知らないだけだろ」

 「はぁ?」


 本当にまずい。

 あと少しで殴り合いが起こりそうだ。

 どうにかしないと。


 「2人とも、落ち着いて。

  通行人の何人かがこっち見てるよ」


 するとアルスさんが間に入って2人をなだめた。


 「こういう時はあれだ。

  話し合いとかで決めるのは」


 「嫌よ」

 「無理だな」

 

 2人が同時に、そして即答で言った。

 

 「…アルス、確かこの都市には冒険者ギルドがあったわよね」

 「あぁ、あるよ。

  たしかあっちの方向に」


 アルスさんは右側を指差した。

 チラリと見ると確かに冒険者ギルドがあった。

 ホテルぐらいの大きさで、他の建物より目立っていたのですぐに見えた。

 

 「よし、今からギルドの訓練場で決闘をしましょう。

  あとは…分かるわよね?」

 「いいぜ、やってやるよ。

  この前やられた借りがまだ返せてなかったからな、覚悟しろよ」

 「そっちこそ、またゲロ吐かないように気をつけなさいよ。

  悪いけど、イズミはその辺ぶらついてて。すぐに戻るわ」


 2人はギルドの方へ歩き出した。


 「…私は宿を探してくるけどイズミくんは?」

 「…俺はその辺ぶらついてきます」


 アルスさんは宿を探しに行った。


 さて、俺はどこに行こうか。

 なんか楽しそうな所があればいいが。


 「ん?」


 ある建物が視界に入った。

 『ウートル大図書館』。

 そう書かれている看板が入り口に貼ってあった。

 図書館か。読書は時間を潰すのにもってこいのやつだ。

 よし、入るか。


 俺は図書館に入った。

 中は思っていたより普通だった。

 大きな本棚がズラリと大量に並んでいて、部屋の隅には読書用の大きな机があった。

 中にいた人はたったの6人。

 大図書館という割には少ないな。

 だが、空いている方が読書に集中できるから好都合だ。

 さて、本を探すか。


 俺は本棚の前を通りながら、適当に本の題名を見る。

 そして俺は3冊の本を手に取った。


 本の題名は

 『囚人358人神隠し事件』

 『剣爺九ツ剣』

 『アルメリアス十二神』だ。


 俺は机に座り、1冊目を開いた。


ーーー


『囚人358人神隠し事件』


『1607年のことである。

 魔族の国『グルバルタ』、獣族の国『シシ』、帝国『アトモス』の三つにある監獄から合計358人の囚人が突如として消えるという事件がおきた。

 今から話すのはグルバルタでの内容だ。

 事件発覚は深夜3時のこと、看守がいつも通り巡回をしていた時、ある牢屋から看守を呼ぶ声がした。

 看守は囚人が寝ぼけていると思いながら、声がする牢屋の前まで移動した。すると、中には囚人が1人しかいなかったのである。

 グルバルタの監獄では牢屋に収監する人数は1部屋に3人と決まっている。

 看守は囚人が脱走したと思い、すぐさま警報を鳴らした。

 警報を鳴らしてから3分後、なんと他の部屋からも囚人がいなくなっていることが分かった。

 いなくなった囚人の数は合わせて97名。

 大規模な脱走計画と思った看守達は冷や汗をかいたという。


 しかし、ある疑問が看守達の頭に浮かんだ。

 それはどうやって脱走したのか、だ。

 部屋の隅々まで探しても外へと繋がる抜け穴などは無く、南京錠は壊されておらず、当時牢屋の鍵は厳重に保管されていたので扉から脱出した可能性はゼロだった。

 一体どうやって脱走したんだ?と彼らは思った。

 すると最初に看守を呼んだ囚人がこう言った。


 「グッスリと寝ていた時、物音がしたので目が覚めた。

  すると黒い…人のような者が立っていた。

  そいつは眠っていた2人を飲み込んだ。そう、飲み込んだ。

  あまりにも恐ろしいことだったんで鮮明に覚えている。嘘ではない。

  その後そいつは俺の方を向いた。

  次は俺だ、と思ったがそいつは急に消えた。

  俺は怖くてしばらくの間動けなかった。

  囚人を呼んだのは10分後のことだ」


 その後、同じ内容を証言する者が何人か現れた。

 そして、シシとアトモスでも同じ事件が起こったという話が来たのは翌日の事だ。

 なおシシからは52人、アトモスからは209人が消えた。

 

 3国はすぐに軍を動かし、捜索を開始した。

 しかし捜索開始から5年後、手がかりとなるものは何一つ見つからず、国はこの捜索を軍から冒険者ギルドに変更した。

 今でも手がかりは一つも見つかっていないという。


ーーー


 俺は本を閉じた。

 ミステリー小説かなんかだと思って手に取ったが、まさか実際にあった事だとは。

 1607年に起こった事件か。確か今が1854年だから247年前のことか。

 魔族の寿命は500〜700年、亜人族は300年程(エルフは数千年)だから、その国から消えた囚人はまだ生きている可能性があるが、アトモスは人間の国だからもう全員亡くなっているな。

 それにしても247年も経ってるのに手がかりが何一つ見つからないなんて恐ろしいな。


 ゴゴゴ…


 なんか今揺れたな。

 地震か?

 けど、そんなに大きな揺れじゃないし気にするほどでもないな。

 次読むか。


ーーー


 2冊目と3冊目を読み終えた。

 内容はこうだった。


 まず2冊目『剣爺九ツ剣』


 ドワーフの国『ロートス』に住む、剣爺と呼ばれる男ヤマバキ。

 彼は剣を愛し、剣のみを造っていた。

 ドワーフは本来武具の他にも建造物や工芸品などを造ったりするが、彼は剣しか造らないという。

 それだけであればただの剣好きな人であるが、彼が造る剣は国宝級と謳われるそうだ。

 彼は隠居をするまでに362本の剣を造ったが、9本の剣以外は出来に不満があったらしく、すぐに壊したらしい。

 そして、残った9本が現在有名な『剣爺九ツ剣』だ。

 

 豪剣『ヤマビト』

 疾風剣『カマイタチ』

 水竜剣『渦』

 獄炎剣『閻魔』

 氷王剣『アイシクル』

 稲妻剣『霹靂』

 双子剣『ツイン』

 魔王剣『グルバルタ』

 黄金剣『極』

 

 これが剣爺九ツ剣だ。

 黄金剣が1番最高の剣らしく、「もうこれ以上の剣は造れないだろう」と彼は言い、剣造りをやめて自身の技術を後世に残すため、弟子を取ったそうだ。

 弟子は7人。

 30年後、7人全員が免許皆伝。その後ヤマバキは隠居。

 自身の家族と一緒に静かに暮らしているという。


 ゴゴゴ…


 3冊目は『アルメリアス十二神』


 アルメリアス十二神。

 この世界を創造した12人の神様。

 理由は分からないが、はるか昔に全員この世界からいなくなっている。

 今は神人族が代わりに世界の管理を行っている。

 ちなみに彼らがいなくなる2年前、突如天変地異が起こったらしい。

 海は荒れ狂い、天からは景色が見えなくなるほどの豪雨が降り注ぎ、地上は建物が一瞬で倒壊するほどの地震が起きたという。

 その天変地異は1日で終わったが、死者は数百万を超えたそうだ。


 そしてその2年後…つまり彼らがこの世界にいなくなった日、一つの国が滅ぼされた。

 名前は『ミラマレス』。

 滅ぼしたのは十二神の1人、器の神『ユラナス』。

 ちゃんとした記録が残っているそうで、作り話とかではないらしい。

 なぜ滅ぼしたのかはこれも分かっていない。


 が、一説によると『決まり』を破ったせいではないかと言われている。

 その決まりは『戦争を起こしてはならない』

 なぜこんな決まりを作ったのかは分からないが、ミラマレスはその決まりを破ったせいで滅ぼされたという。

 しかし、いくら決まりだからと言って滅ぼすのはやりすぎではないかと俺は思った。

 

 ちなみに十二神の名前は

 炎の神『サン』

 知恵の神『ルナ』

 魂の神『マーキュリ』

 幸福の神『ヴィーナス』

 大地の神『アース』

 光の神『マーズ』

 自然の神『ジュピタ』

 時の神『サタン』

 器の神『ユラナス』

 海の神『ネプチューン』

 音の神『プルート』

 全の神『ギャラクシ』

 だ。

 

 ゴゴゴ…。

 

 さっきから小さな揺れが何度も起きてるな。

 大きな地震でも来るのか?

 一旦外に出るか。


 俺は3冊を元あった場所に戻して外に出た。

 すると何やら慌てて走る冒険者が数名見えた。

 彼らは何やら興奮しながら会話をしていた。


 「おい! ギルドで大男の魔族と小さな女の子が戦ってるってよ!」

 「あまりにも激しすぎて止めに入ったAランク冒険者2人が大怪我したらしいって話だな!」


 彼らの会話から俺はこの揺れの原因が何なのか察した。

 

 「……」


 俺は図書館に戻り、先ほどの3冊を取った。

 この揺れが収まったら行こう。

 

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