第12話 ロストマグナの配下
「ロストマグナ…!?」
突如現れた男が口から発したのは、テラスさんの仇である怪物の名前。
そして男はそのロストマグナの配下で名をケマガ。
「ロストマグナ様の命により、貴様達の命、もらう!」
ケマガは両手に鎌を持ち、体勢を低くする。
咄嗟に俺たちは戦闘態勢に入る。
マナは杖を構え、アルスさんは防御の姿勢に入り、俺は剣を抜く。
俺とアルスさんの距離は近い。だがマナは少し離れた位置にいる。
ケマガがまず狙ってくるのは恐らく…。
「まずはそこの女からだぁ!」
やはりマナを狙ってきた。
ケマガは地面を思い切り踏み込み、マナに向かって全速力で突進した。
「……」
マナは落ち着いた表情で右手に持っている杖に魔力を込める。
あの落ち着いた表情、マナも敵が自分から狙ってくる事を分かっていたのだろうか。
「…火球」
杖の先端についてある透明な宝玉が赤く光り、そこから炎の球が現れた。
炎の球は弾丸のような速度でケマガに向かって発射される。
「シャァ!!」
ケマガはそれを鎌で一刀両断した。
予測していたのだろうか、奴は驚かず、笑いながら火球を軽々と斬った。
「この程度の魔術で俺を倒せるとでも思ってるのかぁ!?」
マナは次の魔術を発動しようと杖に魔力を込めるが、ケマガはすでに間合いに入っていた。
「まずは1人目!!」
「…マナ!!」
俺はマナの名前を叫ぶ。
マナなら大丈夫だと思っていた。
簡単に奴を倒せると思っていた。
弱い自分が助けに入れば邪魔になると思っていた。
だからその場から動かずにいた。
しかしそれは間違っていたと今確信した。
助けに入ろうとしたがもう遅かった。
ケマガは鎌を高く振り上げる。
「……ッ!!」
しかし突然ケマガが後ろに飛び下がった。
「どうしたの?あと少しで殺せてたのに」
マナはニヤリと笑いながらそう言った。
「ふん。貴様、あえて俺様を誘っていたな」
「正解」
マナは指をパチンと鳴らした。
と同時にマナの周りに複数の魔法陣が現れた。
罠だ。
マナはあえて敵を誘い、敵が近づいた所で魔法陣を発動させて倒すという策を講じていたのか。
もし助けに入っていれば、俺もあれに巻き込まれる可能性があった。
動かなくてよかった。
「なら、変更してそこにいる黒髪のガキから仕留めよう」
ケマガの体がブレる。
次の瞬間ケマガは俺の目と鼻の先までに近づいていた。
「なっ!?」
反応が遅れてしまった。
剣を構えようとするが、すでにケマガは鎌を振り下ろしていた。
ガキィン!!
突然目の前で火花が散った。
「大丈夫? イズミ君」
アルスさんが豪剣で鎌を弾いてくれた。
鎌が弾かれると同時にケマガは後ろへ飛び下がる。
「あ、ありがとうございます…」
助かった。
もしアルスさんが近くにいなかったら俺は死んでいただろう。
「ぬぅ…鎧の方も厄介だな…ならば!」
ケマガは自身の背後にあった鋼竜の死体を両手で掴んだ。
「ぐぬぬぬぬ!!! どりゃあ!!」
力一杯、鋼竜の死体を持ち上げ、それを俺たちへとぶん投げた。
ゴリラでもあんなことはしないぞ。
だが、そんな事を思っている場合ではなかった。
あの巨体はどう考えても避けられない。
デカすぎる。
「風壁」
マナが魔術を発動した。
風が勢いよく吹き上げ、鋼竜の死体を受け止め、ケマガの方へと押し返した。
「ちっ…!」
ケマガは鎌で鋼竜の胴を真っ二つに斬り、鋼竜の死体は二つに分かれ、轟音を立てて地面に転がった。
「人間ごときに本気を出すというのは癪に触るが仕方ない…
ぬん!!」
ケマガは両手に持っている鎌を自身の腹に刺した。
急に自害でもしたくなったのだろうか。
しかし、ケマガの腹から血は一滴も流れなかった。
腹に刺さっている鎌は腹の中へと沈んだ。
ケマガは刺したのではなく、取り込んだのだ。
自身の鎌を。
「俺様の本当の姿を見せてやろう!」
ケマガの身体はみるみると変形した。
足は人間のものとは思えないほど長くなり。
両手はカマキリのような鋭い鎌に。
目は二つから六つに。
身体の大きさは鋼竜と同じくらいに変わった。
「さあ! 本気の俺様の力を思いし…がっ!?」
ケマガの顔面が突然爆発した。
「ごめんなさい、隙だらけだったからつい」
爆発はマナの魔術によるものだった。
容赦がない。
まぁ、確かに隙だらけだったし、攻撃のチャンスだった。
「くそが…ふざけやがって!」
ケマガは爆発の煙を振り払い、マナに鋭い眼光を向ける。
完全に怒っている。
だがマナはあえて怒らせているのだろう。
ああやって怒らせる事で、相手に冷静な判断を無くすことができる。と思う。
「イズミ、これを」
するとマナは突然懐から黒い球を取り出し、俺の方へと投げた。
俺はそれを慌ててキャッチする。
「今から私があいつと戦うから、隙ができたらその球をあいつの方へ投げて『縛れ』と叫んでちょうだい」
この球をケマガに投げる…か。
それを本人の前で言って大丈夫なのだろうか。
普通にケマガに聞こえてるから、あいつは俺を警戒してくると思う。
けど、あえて本人の前で言うことは何か狙いがあるのだろうか。
マナを信じてみよう。
「アルス、あなたはあいつの動きが止まったら、死なない程度で一撃を入れて」
「了解」
「それじゃあ、行くわよ」




