第11話 魔物討伐
俺達は今、ナルルタ城下町から3,4時間ほど歩いた距離にある森の入り口に立っている。
アルスさんが受けた依頼は魔物の討伐。
討伐する魔物の名前は『鋼竜』。
鋼竜は1週間ほど前にこの森に現れたそうだ。
本来竜は人族の国には生息しておらず、亜人族と魔族の国にしか生息していない。人族の国に現れる竜はナワバリ争いに負けて追い出された竜で、Bランク以上の冒険者なら勝てるらしい。
しかし、今回の討伐対象である鋼竜は全ての竜の中で1番硬い鱗を持っており、余程精巧に造られた武器でないと、折れてしまうほどだそう。
アルスさんが依頼を受ける前に何人かの冒険者が鋼竜を討伐しようとしたそうだが、全員武器が折れてしまい失敗したそうだ。
「この森の中に鋼竜が…」
まだ太陽は出ているのに、森の中は薄暗い。
この森の中に竜がいると聞くと、入るのに躊躇してしまう。
「イズミ、なにしてるの。置いていくわよ」
戸惑っていると、マナとアルスさんはいつの間にかもう森の中に入っていた。
すぐに俺は、マナを追いかけた。
「イズミ君。そんなに怖がらなくても、私1人で倒すから大丈夫だよ」
「えっ、大丈夫ですか? 剣折れないですよね?」
「安心してイズミ。アルスの剣は特別だから」
「特別…?」
アルスさんの剣が特別とはなんだろうか。
ファンタジーの世界なら魔剣や聖剣があるが、アルスさんの剣はそれだろうか。
森の中を進んでから15分ほどで鋼竜を見つけた。
暴れた形跡だろうか、周りの木々が根本から折れて倒れている。
「それじゃあ、すぐに終わらせるよ」
アルスさんはそう言うと、体を軽く動かし剣を抜き、左腕に鍋蓋ぐらいの大きさの盾を装着した。
アルスさんの剣は思っていたより普通の剣だった。
あの剣は何が特別なのだろうか。
「よし…!」
アルスさんは体勢を低くし、鋼竜目掛けてダッシュした。
その速さはまるで全速力で走るチーターのよう。
鎧を着ているのにあの速さは流石としか言いようがない。
「ガギャァァァァァァァ!!!」
鋼竜は真っ直ぐ向かってくるアルスさんに向けて鋭い爪を振り下ろした。
「よっと!」
アルスさんはその攻撃を軽々と躱し、剣を放った。
ザシュ!!
攻撃は鋼竜の腕に当たり、鱗は斬れ、血がドバッと溢れ出た。
「えっ!?」
俺はそれを見て驚いた。
鋼竜の腕に付いている鱗を簡単に斬った。
鋼のように硬い鱗を。
「あれがアルスが持つ剣の力よ」
「剣…?」
俺はマナの方へ顔を向ける。
「『剣爺九ツ剣』の1つ。『豪剣ヤマビト』。それがあの剣の名前よ」
「豪剣ヤマビト…」
「豪剣は簡単に言えば力の塊。
鋼竜の鱗なんか紙みたいなものよ」
「すごい…」
「…。そろそろ終わるわよ」
俺はその言葉を聞き、アルスさんの方へ向く。
見ると鋼竜の体はボロボロで、立っているのが精一杯という状態だった。
「トドメ!」
アルスさんは鋼竜の首目掛けて、一閃を放つ。
鋼竜の首はカッターで思い切り切った紙のようにスパッときれ、頭はズシンと音を立てて地面に落ちた。
「ふぅ…終わったよ」
「凄いです、アルスさん」
「ははは、ありがとう」
「お疲れ様アルス。
それじゃあ鋼竜の死体は収納魔法で回収して、冒険者ギルドに引き取って報酬を貰う……前に、そこにいるお前、出てきなさい」
マナは急に何者かに喋りかけた。
すると、森の奥から1人の男が不気味に笑いながら現れた。
両手に鎌を持っていて、少し小汚い格好をしている。
目は大きく見開いており、異様なオーラを放っている。
「カハハ…気づいていたか…流石だな」
「気配がバレバレなのよ。で、何者なの?」
男はニッと笑った。
「俺様の名はケマガ!! ロストマグナ様の配下が1人、ケマガ様だ!!!」




