第9話 初めての戦い
カレマ町を出てから30分ほど歩いただろうか。
マナが用意した中に入れた物の重さを無くすバッグのおかげで、それほど疲れは感じていない。
ナルルタ城下町に着くまでにはまだ距離がある。
バッグのおかげで体力をあまり消費しないからといって、ペース配分を間違えてはダメだ。
と、突然マナが立ち止まった。
「この先に魔物がいるわね」
俺は目を細めて遠くを見るが、見えるのは木と草むらだけだ。一体マナには何が見えてるんだ。
まさか幽霊か?
魔物の幽霊なのか?
「マナ、俺には何も見えないけど」
「私の眼は魔眼なのよ。千里眼の力を持ってるの」
千里眼。
遠距離まで見る事ができるアレか。
なら俺が見えないのも分かる。
「イズミ。貴方の戦闘能力を見てみたいから、貴方が倒してちょうだい」
「へ?」
俺はマナの言葉に驚き変な声が出た。
いきなり倒せと言われるとは思わなかった。
俺は腰につけている剣を見た。
剣身の長さは大体80cm。装飾のような物は無く、普通の剣だ。
当たり前だが剣を振ったことは無い。
体育の授業でやった剣道で竹刀を振った事はあるが、今俺が腰につけているのは本物の剣だ。
「倒せるかな…」
「大丈夫よ。いざとなったら私が助けるわ」
マナは腰に手を当て、フッと笑いながら言った。
ーーー
マナが魔物がいると言っていた所に着いた。
周りは草むらと木のみ。
一体どこにいるのかとキョロキョロと辺りを見回す。
するとマナが右斜め方向に指を刺した。
「あそこよ」
指を刺している方向を見ると遠くの草むらから、全身黒色の毛で覆われている狼が現れた。
赤く鋭い眼がこちらを睨んでいる。
「ヘルハウンドね。群れで行動する魔物だけど、他に気配は感じないわ。恐らく、はぐれね」
ヘルハウンドはよだれを垂らし、唸り声を上げ、今にも襲いかかってきそうだ。
俺は剣を抜いて構えた。
マナは後ろへ下がった。
「この距離からだと、ヘルハウンドは助走からの跳躍で攻撃をしてくるわ。避けて攻撃するか、噛みつかれる前に攻撃しなさい」
「分かった」
避けて攻撃か、噛みつかれる前に攻撃か。
前者にしよう。
攻撃を避けて、アイツが着地したところを仕留める。
よしこれで行こう。
中段の構えを取り、ヘルハウンドが仕掛けてくるのを待つ。
ヘルハウンドは警戒しているのか、こちらの様子を伺っている。
俺は動かない。
初めての戦いだ。無理に動こうとしてはダメだ。
落ち着いて相手の攻撃を待つんだ。
ヘルハウンドはガウッと鳴き声をあげ、こちらに向かって走ってきた。
速い。
全速力で走る犬よりも速いか。
まだ動いてはダメだ。
ヘルハウンドは跳躍をし、口を開けて鋭い牙を剥き出しにして、俺の顔面目掛けて襲いかかった。
今だ。
奴が飛んだと同時に体を動かし、攻撃を回避する。
俺の顔面を噛み付けなかったヘルハウンドは、クルリと回転してこちらを向きながら着地をした。
着地した所までの距離はそこまで遠くない。
次の攻撃が来る前に倒す。
俺は走り、剣を振りかざす。
「うおおおお!!!」
上段斬りを放つ。
と、同時にヘルハウンドがまた俺の顔面目掛けて襲いかかった。
しかし1度目とは違った。
助走をする距離が無く、奴はその場で跳躍をした。
その為先程の攻撃よりも少し遅く、俺の攻撃が先に当たった。
放った上段斬りはヘルハウンドの首の根本に当たり、奴ははそのまま地面にドサっと倒れた。
やったか?
いやこのセリフはダメだ。
油断してはいけない。
もしかしたらまだ生きていて、隙を見て攻撃してくるかもしれない。
俺は剣を構えてヘルハウンドに近づいた。
恐る恐る確認する。
息はしていない。
倒した。
「やった…!」
緊張が解けたのかドッと汗をかき、息を荒くしながら喜んだ。
喜んでいるとマナが俺の方まで歩いてきた。
「マナ、どうだった?」
「…まあまあね。ま、貴方は戦いなんて初めてだし、これぐらいが普通よね」
まあまあか。
確かにマナぐらいからするとこれぐらいの魔物は屁でもないだろう。
もっと強くならないとな。
「さてと、ヘルハウンドの肉はおいしいし、毛皮はそこそこの値段で売れるから回収するわよ」
マナはポーチからナイフを取り出すとその場でヘルハウンドの解体作業を始めた。
ナイフで切ったところから内臓が見えた。
思わず目を逸らす。
「ほら、何してるの。貴方も手伝って」
「あ、あぁ。分かった」
吐きそうだが、我慢しよう。
これも強くなるための一つだと思おう。
1ヶ月の更新無し本当にすみませんでした。




