「黒海を越える」
薄暗い部屋。古い電球は時々光が消えてはまた付いての繰り返し。
床には沢山の本。無造作に置かれていて、足の置き場所に困る。
チクタクと進む時計の針。錆びているせいなのか壊れているせいなのか、たまに謎の音が聞こえる。
大きなテーブルと二つの椅子。テーブルにはコーヒーが入ったカップが二つ。
目の前には椅子に座り読書をする友の姿。
友と同じように読書をしていると、突然友が話しかけてきた。
「明日黒海を越えようと思ってる」
「どうした?
研究のし過ぎで遂に脳がいかれたか?」
「まさか、絶好調さ。
これを見てくれ」
そう言いながら友はテーブルにある物を置いた。
置かれたのは光り輝く球。
若干フワフワと浮いている。
不思議な球だ。
(また何か作ったのか?)
友は何でもかんでも物を作る奴だ。
空飛ぶ家、ワープ装置、自律戦闘人形、空中戦艦etc…。
「今度は何を作ったんだ?」
「さっき言った黒海を越える、その為の道具だよ。
名前は『トラベル』」
「本気か?」
「もちろん。私が今までこれをやると言ってやらなかった事なんてあるか?」
黒海。
それは星海の外にあるもの。
昔、黒海を越えようとした者が何人かいたが、全員失敗に終わってしまった。
「ま、頑張れよ。
てかこれどうやって浮いてんだ?」
「それは秘密さ」
次の日。
友は黒海を目指しにいった。
それっきり、あいつは帰ってこなかった。
ーーー
友がいなくなってから十数年後、ある二つの勢力で戦争が起きた。
今よりさらに強い存在へ成長しようとする『進派』と、今のままで十分、これ以上先は危険だと言う『止派』。
今までは討論による争いだったが、ついに武力による争いが起きた。
私は『進派』に所属していた。私は力による成長を考えていた。
友も『進派』に所属していた。友は知恵による成長を考えていた。
争いは最初は『進派』が優勢だった。
しかし、ある日『進派』のリーダーが病死してしまった。
リーダーが死んでしまい、慌てふためく『進派』を『止派』は好機と考えた。
『止派』は反撃を開始し、『進派』を追い詰めていった。
『進派』は敗北してしまった。
その後、『進派』は自殺する者、『止派』に寝返る者の二つに分かれた。
私は自殺や寝返りなどしなかった。
逃げると決めた。死ぬのも寝返るのもごめんだ。
私は自分の家に向かい、広い地下室からある物を出した。
巨大な空中戦艦。
名を『ボヤージュ』
私の自慢の戦艦だ。
友がいなくなったあの日、私は友の家に入った。
そこには友が持っていた本や、友が作った資料や設計図があった。
そして見つけた。
トラベルの設計図を。
私は長い時間をかけてトラベルを作り、この空中戦艦へと取り付けた。
友よ。
私も黒海を越えるぞ。
確か、黒海を越えた先には、こことは違う世界があるという話があったな。
もし本当に違う世界があるとしたら、私はその世界で力を付け、今よりさらに強い存在になろう。
私は娘と9人の部下をボヤージュに乗せて、黒海へと向かった。
ーーー
黒海が見えた。
トラベルの力があれば、あれを越えられる。
黒海に入った。
さあ、トラベルよ。
お前の力で黒海を越えさせてくれ。
景色が星で埋め尽くされた。
星海だ。
まさか戻ってきたのか?
いや…私の知る星海とは微妙に違う。
そうか。
やった。
黒海を超えた。
光が見えた。
とても眩い光が。
もしかしたらあれが…。
私は光へ目指した。