給料は欲しいけどやっぱり休みの方がいい……:1
「この人、心当たりありませんか?」
「知らない」
「この人、見た事ありません?」
「失せろ」
「……この人、知ってます?」
「金払えば聞いてあげるよ?」
ここはサインエンド。
イストサイン一の危険地帯。
(どうして休日出勤でこんな場所来なきゃいけないのよ……)
昨日、サインエンドの路地裏で死体を見つけた。
報告したら、騎兵の第一発見者という事で休日返上の上捜査に当たることになった。
(最悪!)
「…………はい」
現場の近くに立っていた派手な服装の娼婦に金を握らせる。
「まいど、さて写真の男だね」
エンドサインの調べ物で必要なのは第一に金、次に金、最後まで金。
生活困窮者の多いこの地帯で価値があるのは金だけだ。
「うん、流れ者だ。移民じゃないかい?」
当たり障りのない答え、同じような返答を三度受けた。
この女も話を『聞く』だけだろう。
「前に遊んだことがあるよ」
「本当です?」
思わぬ返答に頬が緩んだ。
「……もうちょっとお代に色を付けてもらえる?そしたら口も緩むんだけど」
(やってしまった)
金こそ力のこの街で、隙を見せてはいけない。
サインエンドの騎兵隊屯所。
昨日死体の通報をした所だ。
「死体の男はジャック、苗字は不明。話を聞く所移民だと思われます」
狭い屯所にはカティア隊長とエドガー、私の三人がいる。
「五年ほど前に現れて、仕事は日雇いの労働や用心棒……コソ泥とかで身を立てていたようです」
死体の写真を持ってサインエンド中聞いて回った情報だ。
「知り合い達によれば、仕事を実直にこなしたり、孤児院の子供と遊んだりと評判は良い人物だったようです」
「それで、事件当日は?」
「露店で子供に食べ物をあげていたって目撃情報がありました。……その直後ですね、ジャックが発見されたのは」
「ジャックと一緒に居た子供は?」
「そっちは俺が、ジャックが寝泊まりしてた孤児院の子供達です。なにぶん人数が多くて全員の把握は無理でした……ただ子供が言うに食べ物をくれた後ジャックは一人で帰った。と」
今日一杯を使ってエドガーと手分けして集めた情報を隊長に伝える。
「そうか……悪いな二人とも、休みだと言うのに出勤してもらって」
「いえいえ……正直言って、死体見た時からこうなる覚悟してましたよ」
エドガーの苦笑が、私たちの率直な気持ちを表していた。
──カツン
イストサイン騎兵支部の地下牢。
煉瓦の敷き詰められた廊下に、小さな足音が響く。
静まり返った地下房の前では微細な音も耳を打つ。
「……迎えに来ましたよ。オリンピア」
最奥の房、小柄な少女が座る牢の前に騎兵の制服を着た老人が立っていた。
「おおー、ライオネル社長補佐じゃないか、まさか君が来てくれるなんて」
オリンピアが小声で喜びを表した。
「本当に捕まっているとは……これでは私が間抜けではないですか……」
ライオネルと呼ばれた男は呆れたように頬をかく。
「そうだね、流石に反省してる。ごめん。それじゃあ出してくれない?」
「はいはい、静かにいきますよ、静かに……」
鉄の歯車の音が、地下の静寂を破った。
「……ロス」
オリンピアが注意を促すよう呼びかける。
「……あーあ、本当に間抜けだ」
静寂が破られた。
地下の廊下を、オリンピアの居る牢に向かって。
「久しぶりだな、ロス」
車椅子に乗った義手の老人が進んでくる。




