寝てるだけで休日が終わった…!
病室の扉を誰かがノックした。
「どうぞ」
個室に母が入ってくる。
「塔子、お医者さんから新しい抗癌剤について聞いて来たわ」
私の寝るベットの隣に座り、話しかけてくる。
「とにかく今の癌を小さくしていって、その後に手術をするって」
スマホから顔を上げ、母の方を見た。
「先生が言うには……前のよりも強い薬になるって」
「今度は禿げるやつ?」
冗談めかすように、笑いながら言ってみる。
「……どうかしら」
「禿げるのはやだねぇ」
苦笑しつつ、再びスマホに目を落とす。
辛い夢を見ていた気がする。
眼を開けると、母が顔を覗き込んでいた。
「レガリア……!眼が覚めたのね」
「母さん……?」
ここは……イストサイン騎兵団支部の医務室だ。
「起きたか」
ベットの近くにもう一つ大きな人影が寄って来た。
「カ……カティア隊長、おはようございます!」
「おはようレガリア、起きて早々だが仕事だ」
仕事の一言を聞き、さっと顔が青ざめる。
「隊長、今何日ですか?あれから何日経ったんですか?」
「レガリア、貴女二日も寝てたのよ」
「二日!?」
私の休日はどこに行ったのだ。
「そう言う訳だ、お前は峡谷の底で気絶していた。色々聞きたい事がある、ヴィルヘルムの件や列車の件について」
ぼんやりと、気を失う前の事が浮かんでくる。
(確か列車が落ちた後騎士が出て来て……機関士の人の手当てをして……ヴィルヘルムが私に銃を……)
両手を見る、火傷ひとつ負っていない。
「レガリア、これを」
隊長が濃紺の制服を渡して来た。
「お前の服、血だらけだったからな、新しいのを用立てておいた」
「ありがとうございます、あの……私の側に機関士が1人いたはずですが……」
「ああ、その機関士なら無事だ。よくやったな」
(褒めてくれた……)
隊長の言葉で顔が熱くなるのが自分でもわかった。
「それではアンナさん、失礼します。レガリア、10分以内に会議室だ」
「久しぶりに話せてよかったわ。カティアさん」
隊長が医務室を出て行く。
「あれから大変だったのよ?レガリアちゃんがいない間にトーマスさんの家に騎兵がやってくるし、ご近所さん達尋問しに来るし。、レガリアちゃんが行方不明なの知ってお母さんとても心配したのよ?」
トーマスは確かヴィルヘルムの偽名だ。
「私も色々あったのよ、色々」
せめて休日をくれ、休日出勤と入院してた分休みをくれ。
「それじゃ急いで着替えて行きなさい、私も今日は仕事だから」
「……はーい」
不貞寝してやろうと思ったがここは職場だ、そんな事すれば隊長が制裁に来る。
ベットから脚を下ろす、シャツと下着しか身に付けていなかった。
(火傷の痕、本当に消えてる)
大火傷を負った気がするが、幻覚だったのだろうか。
記憶を振り絞ろうと頭を掻いた。
(前髪、焦げてる)
あの拳銃、漆黒鉄の鎧を打ち砕いた銃は──
ベットから立ち上がると、何かが床に落ちた。
(あの銃だ)
赤く輝く例の拳銃が床に落ちている。
(何だろこの糸)
床に落ちた銃をから白い糸が伸びている。
(手に繋がってる)
どうも白輝鉄のようなその糸は、私の血管に繋がっている様子だ。
銃を手に取り、まじまじと眺めてみる。
緋色鉄製だろうか、グリップは蒼鉄のようだが、全体的に妙な光沢を放っている。
シリンダーを開けて弾倉を見る、六連発のよくある銃だ。
(弾が一発も入ってない)
「レガリアさーん」
「ひょええええ!!」
背後から男性の声がした、急いでシャツで胸元を隠す。
「カティア隊長が早くしろって言ってますー」
衛生兵君の声、仕切り壁の向こうから声をかけてきている。
「了解であります!急いで向かうと伝えてください!」
「はーい」
制服を着て、銃をホルスターに収める。
歯車仕掛の掛け時計は9時30分を指していた