休み中に業務がやってくるんじゃないよ:3
ファルナが剣を下ろすと、ロスも杖を下げた。
「見事ですな、騎士ファルナレギア。この距離を詰めて来るとは、さぞ厳し鍛錬を積んだのでしょう」
「どうも、なんなら本気で戦える場所で出会いたいものね」
「私としては、一生そんな機会は来てほしくないですが」
吹き飛んだ帽子を拾いながらロスが答える。
「……ところでロスさん、ここには本当に偶然来たの?」
「目的は無いですよ……まあ、私の風来坊がここに来るよう案内してきたというのが本当のところですが」
ロスが杖をくるくる回す。彼が風来坊と呼んだ杖が私たちを引き合わせたらしい。
「実はイストサインである人物と待ち合わせしていたのですがね、集合場所に来なくて探してるんですよ」
「へー、誰の事なのかな?」
「内緒です。一応聞きますが迷子を保護していませんかね、騎兵さん?」
「迷子は居ないけど地下牢の房なら余裕があるわよ」
ファルナは笑顔だが、目は笑っていない。
「良かったら今から来る?最近乱暴な猫を一匹捕まえたんだ。退屈させないよ?」
仄めかすようにファルナが言う。
「考え直していただくと助かりますよ……ところでそこで寝ている方は?」
話題を逸らすようにロスが傍を通り過ぎ、死体の元までやってきた。
「ここに居合わせたから、貴方が何か知ってると思ったんですけど」
ロスは興味深そうに死体を見ている。
「…………過去に、同じような死体を見たことがある」
死体の顎に手を添え、ロスが言い出した。
「……人から命を奪い取る原石武器を持った老婆が、隠れて殺人を行っていた……かなり前のことになるが」
「原石武器……じゃあここにその人が居たってことじゃ──」
「奴は私が殺しました」
ロスが言い切った。
「確か……リーパーと名乗っていた。命は絶ったが、原石までは奪えなかった」
ロスが死体から手を離し立ち上がる。
「……気をつけてください、君たちでも私でもない、別の原石武器を持つ勢力がこの街に潜んでいる」
昨日見た、外傷の無い死体達を思い出した。
この死体からも悪臭がする。
昨日現場に入った時に嗅いだ。濃い死臭と同じ匂い。
「ロスさん……その勢力に心当たりは?」
聞くのは怖い、返事をくれるとも限らない。
けれどこれは、聞いておくべきことだろう。
「……自身の事を『反逆者』と名乗る人物」
いつになく冷たい声。
「そういう者と会ったら、とにかく逃げる方がいい。私もその件については詳しくない」
ロスの声音に若干口惜しそうな雰囲気が滲む。
「また会いましょう」
そのまま手を振り、サインエンドの奥へと消えていった。
「悪いが二人とも、明日出勤してくれ」
(いやだぁぁぁぁ!!)
死体とロスの事を通報した後、すぐに隊長がやって来た。
私とエドガーにとって最悪の告知を持って。




