実は明日から休みなんですよ:1
騎兵の仕事は街の警備、犯罪の予防、暴徒の鎮圧。
街中で犯罪者が暴れたらとりあえず出動して戦うのが仕事だ。
「報告書、退勤までに仕上げろよ」
「「はい……」」
ひとしきり暴れ回ったオリンピアを地下の留置場にぶち込んでから隊長に紙の束を渡された。
「なあレガリア、これどんな風に書けばいいんだ?」
「……出来るだけ密に、簡潔に、ありのままを……じゃないかな?」
今日は定時で上がれるだろうか。
建物の地下から笑い声が聞こえる気がする。
「笑ってんなぁファルナさん」
空耳ではなかったようだ。
捕まえられたオリンピアの姿を見た後、ファルナは余程おかしかったのかしばらく笑い転げていた。
とりあえず報告書作りは後にして昼食を取る。
「……エドガーこれ食べて」
「お、良いのか貰って」
「いいの」
隊長に渡す予定だったが言い出しにくくなってしまった。
(また作ってこよ)
ポテトサラダをパンに塗っていると目立つ魔女の姿をした少女が食堂に入ってきた。
「あ、レガリアここにいた」
支部中に笑い声を響かせていたファルナだ。
「いやー笑ったわ。ありがとねレガリア、アイツの鼻っ柱とプライドぶち折ってくれて」
隣の席に座って朗らかに話しかけてきた。
「ええっと……その、どうもです」
「敬語じゃなくて良いわよ、一緒に戦った仲だからね」
(余計困る)
イグドラにはしっかりとした階級差がある。
基本的に貴族は平民より上、所得も生活水準も。
社会構成からしてそうなっているのだ。そんな貴族の上澄みの方に居る騎士にそんな風に接されても──
「美味しいねこれ、レガリアが作ったの?」
「うん、本当は隊長にあげる予定だったんだけど」
ちょっと前に居酒屋で食べたサラダを再現してみたのだ。
「うまいうまい」
若干棒読み声のエドガーはまだ緊張している。
「楽しいわこういう感じ、マルスサインじゃみんな私知ってるからか雰囲気が堅苦しいのよ」
一緒に食事をして身分関係なく仲良くなれた気がする。
「俺コーヒー淹れてくる」
エドガーが席を離れた。
(さては逃げたな)
「ねぇレガリア、あの夜の事覚えてる?」
「あの夜って──」
「グラドミスが暴れてた夜」
忘れるはずもない。
「覚えてるけど……どうして?」
「じゃあグラドミスにトドメ刺したのは?」
「んん?」
心当たりのない部分だ。
「ファルナ……がやったって報告書にはあったけど」
答えた際、ファルナが難しい表情をする。
「覚えてない?アイツの首落としたのはロスだよ」
(初耳)
ロスは確かにあの場にいたが、した事と言えば私を投げ飛ばしたくらいのはずだ。
レガリアが私の顔を覗き込む。
「えっ……?あの……何?」
「……ううん、本当にレガリアなのかなって思っただけ」
意味がわからない。私を凝視して何を期待したのだろうか。




