こんな道案内があるか:2
「レガリア!大丈夫か!?」
エドガーの声が遠くに聞こえる。
「あれー?おかしいねぇ、加減したけど普通は動けない筈だよ?」
身体に痛みはない、生まれつき丈夫なのだ。
「君は頑丈になるよう侵食されたのかな?」
立ち上がり、無防備に近寄る少女に腕から伸びる原石糸を投げつける。
「おっと」
糸が少女の腕に絡まり、私たちの手を繋ぐ。
だが、彼女の顔は余裕のままだ。
「貴女……一体何者なの?」
原石武器を知る人間は少ない、イグドラで知っている存在といえば騎士達になるが。
(騎士には見えない)
象徴である漆黒鉄の鎧を身につけてもいない。
「そうだねぇ、一応名乗ろうか」
少女が腕を引いた。
「なっ──!」
凄まじい力で引っ張られる。
「貿易商ライナーグループの後継者、オリンピア・ライナーだ。お見知り置きを、原石銃の所有者くん」
オリンピアと名乗る少女の顔が顔面に迫る。
「ふんっ!」
「うがっ!!」
凄まじい頭突きだ。再び身体が後方に吹っ飛んだ。
「終わった?……なんだよ全然元気じゃん」
若干頭に響いた。額を抑えながらオリンピアを見ると、鎖を肩に担ぎながらゆったり迫ってくる。
その時、街中に鈴を割るような音が響く。
「なんだ?」
(ナイスエドガーっ!)
エドガーが空に向け銃を放っていた。
今の音は騎兵隊で採用される音響弾の音だ。すぐ耳にした街の騎兵達がやってくる。
「じき騎兵が来るわよ今ならこの街担当してる騎士もね……まだ続ける?」
「……ふーん、やってくれるね」
オリンピアが肩の鎖をエドガーの方に投げた。
「っ……エドガー!」
「ええ……うわあ!」
あっという間にエドガーの身体がオリンピアの足元に来ていた。
「そうだねぇ、私もこれ以上目立ちたくはないんだな」
オリンピアがエドガーの頭を足で押さえつける。
「ねぇ、黙って私に付いてきてくれない?そしたらコイツの骨、親からもらったままにしてあげるよ?」
私は原石銃をオリンピアに向ける。
「ごめんエドガー、転生しても許してね」
「は?」
即興で人質取ってくる奴への対処法──気にせず撃つ。
出来る限り威力が落ちるよう祈りつつ原石銃を撃った。それなりに強い反動が腕に響く。
「な……い……痛ぁ!」
腕を狙った射撃だ。完全命中した雰囲気ではない、何処かに擦り傷を付けただけのようだ。
「いたぁぁ!!」
オリンピアが腕をかばい飛び退った。
(チャンス!!)
牽制の原石糸を飛ばしながらエドガーの元へ向かう。
「殺す気かよレガリア!」
「アンタも騎兵でしょ、覚悟決めときなさい」
そもそも状況はこっちに有利なのだ。
「お前ぇ!私に怪我をさせてただで済むと思うなよ!」
声の方を向くと激怒したオリンピアが鎖を構えている。
少し前までアクセサリーくらいのサイズだったが今は船の碇のような鉤を先に付けた巨大な武器となっていた。
(もしかしてあの鎖が)
「いけぇ!タイタニア!」
鎖が飛んでくる。
「ごめんエドガー!」
エドガーを思い切り突き飛ばし、私は鎖の飛んでくる先、鉤の方に向かう。
轟音が私を揺らし、視界が曇る。
「……は……ははっ!潰れちゃった?悪いねぇ〜でも君が悪いんだよ〜」
「……そうね、怪我をさせたのは悪かったわ」
耳は若干聞こえずらい、まだ地面が揺れてる気がするが、私の手元には確かに鎖の感触がある。
(原石銃が震えてる)
間違いない、これが彼女の原石武器だ。
原石銃の撃鉄を起こし、この鎖を破壊を目的にし引き金を引いた。
確かな衝撃が腕と肩を痛めつけ、手の表面が焦げた。
「……何したんだ?」
オリンピアの困惑の声が聞こえた。
じゃらじゃらと鎖を引きずる音。
「おい……どうなってるんだよ?どうして私のタイタニアが」
オリンピアの元に戻る鎖は先程より短く先端は私の足元にあった。




