こんな道案内があるか:1
「家出とか失礼だなぁ、本当に旅行だよ」
少女が頬を膨らませ抗議してくる。
「まあ、テロから復興してる街見たくて来たからあんまり趣味は良くないね。うん」
(悪趣味な子だ……)
「あー、それなら支部の方行きゃ幾らでも見れる」
エドガーも若干困り顔だ。正直詮索するべきではなかった気がする。
支部に近づくにつれて壊れた家屋や修繕の為の骨組みをした建物が増えてくる。
「へー結構復興してるじゃん、アレでしょ?騎士がここで大暴れしたんでしょ?」
「そうだな、もう二週間前だ」
「お兄さんもここに居たの?」
「まあな、色々あった」
正直私もエドガーもあまり話したい話題ではない。
「ねえ君、ウチの支部には何の用なの?」
「ああ、友達とそこで落ち合うことになってるんだ」
(……本当にただの案内みたいね)
橋を渡り、広場前に差し掛かる。この辺りは戦闘の跡が特に酷い。
(ここは──)
記憶が蘇る。
あの夜、騎士グラドミスが私達に襲い掛かかった日。
(あの日、最後に見た)
自然に自分の左手が視界が映った。
最後に覚えているのはグラドミスに銃を向けたこと。
『死んで』
銃の引き金を握り、無意識に発した冷たい声。
(……考えちゃだめ)
「ねえ、お姉さん」
「なに?」
少女に声をかけられ意識が現実に戻った。
「その手のキラキラ、格好いいね。何付けてるの?」
彼女が見るのは私の手、その辺りをくるくる回る原石の糸を指している。
(何て答えよう)
私の腕は原石武器という厄介な代物に侵食されている。これについては隊長に口止めされているのだ。
「こいつ白輝鉄回すの好きなんだ、頼んだらどんな動きでも見せてくれるぞ」
「そ……そうそう!こんなのだって出来るわよ!」
とりあえず糸を広げて空に螺旋を描かせて見た。こんなこと侵食される前なら絶対にできない。そもそも人間にできる動きかこれは。
「白輝鉄には見えないけれど……」
少女の瞳が何かを探るように私を見る。
「お姉さんの銃、なんだかちょっと違うね」
「そう……か、ねぇ?」
「うん、なんか青い。なんか術式彫ってるし、お兄さんのと全然違う」
今日の原石銃の色は青、蒼鉄色の気分なのだろう。
「不思議だねぇ、騎兵の銃は統一されてる筈なんだけど」
少女が不意に腰から下げた鎖を鳴らす。
「私、ここには探し物もあって来たんだ」
そのチェーンを見た時、腰の原石銃が震えた。
「ねえお姉さん、原石武器って知ってる?」
原石武器、その言葉を聞いて無意識に原石銃を抜いてしまった。
思えばこの行動は彼女にとって答えだったのだろう。
「──みつけたぁ!」
目の前の少女が腰の鎖を取り外し私に投げつけた。
「獲物だタイタニア!こんなに早く見つかるなんて運が良い!」
腰に鎖が巻き付いた、そのまま身体が宙に浮く。
「……っぐは!」
気付けば石段に叩きつけられていた。
(投げられたの?あんな女の子に……?)
半身を起こし少女の方を見た。
こちらを伺う少女が笑みを浮かべている。獲物を前にした猟犬のような、獰猛な笑みを。




