もっと休んでたかったです:2
「妙な事件だ」
噴水に寄りかかり隊長が口を開いた。
「まず一家の死因だが……これがわからん」
「死因がわからない?何故ですか?」
「ああ、四人とも外傷がない。殴られた跡も出血した様子も」
確かに、家の中は綺麗なものだった。
「となったら病気か何かの中毒か、ガスでも漏れたかと思ったが配管に傷は無し、病気だとしても一家揃って亡くなるものか、とな」
イストサインはガス管の普及が進んでいる街だ。それが原因で火災が起こることもある。
「発見者は隣人の男だ。異臭がすると言う事で家を訪ねてみれば玄関に鍵はかかっておらず、入ってみると死体を発見したらしい」
嫌な情景が目に浮かぶ。死臭を嗅いで出所を探り、隣家に行き当たり扉を開けると濃い臭いと共に死体が──
「死体の状態からして死後それほど長時間は経っていないだろう……しかし死因がわからんな……」
隊長がそのまま頭を抱えてしまった。
「……あのー隊長、俺たちはどうすれば?」
エドガーが隊長に尋ねる。
「ん……二人は街の巡回に戻ってくれ、ここの調査は他の面子でやる」
(やったー!関わらないでいい!)
「何かあれば音響弾で知らせてくれ、あとレガリア」
隊長に名を呼ばれ、表情が硬直する。
「巡回から戻ったら会議室に来るように。ではな」
そう言い残し、話の最中やって来た他の騎兵と共に事件現場へと戻っていった。
「なんかやったの?レガリア」
「私今日……騎士に尋問されるの」
思い出さないようにしていた、私のホルスターに収まる原石銃──非常に貴重、かつ恐ろしい威力を持つ銃について調査しに来るのだ。
我が国イグドラの最高戦力たる騎士が。
巡回の仕事は基本的に楽だ。
街の様子を見ながら決まったルートを歩くだけで良い。何かあっても平和な日なら道案内くらいだ。
「せめてこれ以上は何も起きないと良いなぁ」
隣を歩くエドガーが話しかけてくる。
「初めてだろ?二人だけで巡回任されるの」
騎兵は基本的に二人一組で行動する。
先程まで隊長が居たが私とエドガーは二人で一人前──いや半人前くらいの認識なのだろう。
「そうね、報告書に『特に無し』って書きたいわ」
何も起こるな、思うのはそれだけである。




