上司の上司が怖い顔して私の前に立ってるんです:2
騎士とヴィルヘルムが戦っている。
剣戟の音、ステッキと刃が打ち合うたびに起こる風圧、2人の戦いの壮絶さが伝わってくる。
私は恐ろしくなり、列車の陰に隠れた。
「誰だ……そこにいるのは」
声が聞こえた。
すぐ側に機関士が居た、車体を背にぐったりしているが息はある。
「アンタ……騎兵だな……アイツを診てやってくれ……」
運転手が指差す方向には先頭車両、その機関部の残骸近くに2人男が倒れている。
「わかりました、貴方の怪我は?」
「頭を……打っただけだ、早く2人を……」
急いで他の機関士の元へ行く。
1人は既に息がない、もう1人は腕が千切れていたがまだ息がある。
(出血を止めないと)
上着を脱いで患部を縛る、しかしこれでどれだけ持つものか──
「嬢ちゃん後ろだっ!」
機関士の声が聞こえた、振り向くと背後にヴィルヘルムが立っている。
私を見たヴィルヘルムは驚いた様子だった。
「生きていたんですか」
この男が原因でこんな状況になった、私はヴィルヘルムを無言で睨みつけた。
再び轟音と土煙が上がった。
先程まで私が隠れていた車両をグラドミスにが持ち上げている。
列車が投げ飛ばされ、グラドミスが進んできた。
「騎士様……」
機関士が漆黒の鎧を纏う騎士を見上げ、助けを求めるように手を伸ばす。
騎士グラドミス・アードミルド──教本で写真を見たことがある。
イグドラの騎士、戦場で叫ばれた異名は『崩壊の影』
「……生存者か、ちょうどいい」
鎧越しに、グラドミスが喋った。
「レガリアちゃん、逃げてください。その人を連れて」
ヴィルヘルムがステッキを構えた。
何かの引き金が押されたような音がすると、ステッキから白く輝く糸が飛び出し、辺りを浮遊し始めた。
(白輝鉄だ……こんなに何本も……?)
白輝鉄、他の色鉄とは一線を画す独特な性質を持つ色鉄。
白く輝くその鉄は糸のように伸ばすことができ、持ち手の技量によって自在に操ることができる。
「早く離れて!」
ヴィルヘルムが焦った様子で言い放つ。
私は腕のちぎれた機関士を担ぎ、別の車両の陰に入った。
ヴィルヘルムが白輝鉄の糸を何本もグラドミスにぶつけている。
しかしグラドミスは意に介した様子もなく機関士に手を伸ばし──
「ぎゃああああ!!」
彼の頭を、握りつぶした。
(何を……するの……?)
信じられない。
護国の騎士が、自国の民を殺した。
頭を潰された機関士は手足をぴんと張り、もう動かない。
しかし、その死体には違和感があった。
(血が出てない)
頭を潰された時、飛び散る鮮血を見たが、機関士の死体から血が流れていない。
(違う……血が出てないんじゃない)
グラドミスの鎧に包まれた手は機関士を離さない。
潰され萎んだ頭から、鮮血が鎧に昇る。
鎧が血を吸い込んでいく。
「クハハハハ!本当の戦いを始めようじゃないかロス!」
グラドミスの背から、黒い翼が生えた。
黒く、紅い、獣の手を模したような歪な2対の翼。
ヴィルヘルムの周囲の白輝鉄が、一段と早く回転しだす。
(これが……騎士の戦い……?)
呆然としながら、私は2人のぶつかり合いを見ていた。