だから、もうちょっと頑張ろうって思うんです:2
衝撃と共に、グラドミスの半身が崩れる。
(終わった……)
レガリアは痛み続ける腕を下ろし、視線をロスの方へ向けた。
ロスが持つ杖、そこから白輝鉄の糸が伸びている。
レガリアの身体に糸を引っ掛け、ロスがグラドミスの背後に回り込む。距離が詰まったところでロスがレガリアを引っ張って、至近距離からグラドミスを撃ち抜く。
ロスが提案した作戦だった。
(もう、帰れる……疲れた、眠い)
やっとグラドミスを倒せた。後はファルナかゾディアに引き渡すなり──
「……ん?」
何かに足元を取られた。
次の瞬間、顔に何かが覆い被さってきた。
「……貴方も、いい加減しつこい奴ですね」
ロスの眼前、崩れ落ちたかのように見えたグラドミスの半身から赤黒い影の塊が溢れ出てきた。
「──っ!──!!」
波打つ黒い影はレガリアの顔を完全に捕らえている。
(助けられるか……?)
グラドミスの影は辺りに広がり続け、迂闊に手を出せない。
(無理か、一旦様子を見なければ)
遅いくる影を杖で払い、グラドミスから距離を置く。
原石銃で撃ち抜かれたグラドミスの身体は鎧ごと右半身をほとんど砕かれている。
だがグラドミスの顔、彼の眼ははっきりとこちらを凝視していた。
(騎士は怪物、これほど実感するとは)
背後にもう一人、誰かがいる。
「貴方、ロスでしょ」
この声は周辺の鎧を砕いて回っていたマルスサインの騎士、ファルナレギアの声だ。
「いかにもそうですよ、ファルナレギアさん」
「ファルナでいい。貴方マルスサイン中で噂になってるわよ」
ファルナレギアが剣を抜き、グラドミスを指差す。
「ねえ、貴方ならアレどうやって倒す?」
「私には無理です、勝ち目が一切見えてこない」
「……レガリアは?」
グラドミスのすぐそばに未だ顔を捕まれ宙吊りになったレガリアがいた。
一応生きているようで身体から伸ばした糸で黒い影を刻んでいる。
「アレですね、彼女が動けるならまだ勝機は──」
抵抗していたレガリアが放り投げられた。瓦礫に突っ込み、そのまま動かない。
「……ああ、もうダメかも知れないですね」
周りを見ると、鎧達が囲むように近付いてきていた。
「……電撃作戦失敗ね、レガリア回収して逃げましょう」
ファルナが剣を展開した。
鎧を薙ぎ倒し道を開けようとした時、彼女の周辺に砲弾のような一撃が撃ち込まれた。
「うう……今度は何よ!?」
音の出所に一体、漆黒鉄の鎧が立っていた。
(あの鎧は、確か常にグラドミスの側に)
ヒビが入ったその手に赤く輝く拳銃を持ち、こちらを狙っている。
続けてもう一発の銃声が響き、鎧の腕が吹き飛んだ。
「うわっ!」
ファルナを抱え、その場から飛び退く、一瞬で立っていた場所が吹き飛んだ。
(原石銃!どう扱うのかと思ってみれば)
「逃げるなよロスゥ!」
グラドミスの怒声だ、腹立たしいことに意識もあるらしい。
「……ぐっ」
背後から迫った鎧とぶつかった。いよいよ逃げる場所も無くなってきた。
「アイツ、どうやら我々を嬲り殺しにしたいようだ」
「そんなのゴメンだわ、アイツだって首を刎ねられたなら死ぬ」
再びファルナが剣を展開する。
(しかし、こう分が悪くては……)
ロスがグラドミスを、レガリアが倒れた場所を見た。
(……ん?)
ついさっき、完全に倒れたと思ったレガリアが体を起こしていた。




