毎日思うんですよ、職場に私なんて必要ないって。居てもいなくても変わらないって:4
現れたのは一人の少女。
私より少し年下だろうか、腰まで伸ばした黒い髪に真っ赤な瞳、人形のように整った顔は警戒の目で私を見つめている。
(御伽噺に出てくる魔女みたいだ)
白いシャツに真っ黒なスカート、更に黒い籠手と胴当てを身に付け、頭には大きな帽子をかぶっている。
悲鳴こだます街中で堂々と立つ彼女はこの空気感の中明らかに異質だった。
「その格好、騎兵ね」
丸腰のままこちらに寄ってくる。私は警戒を解かずに銃を向けるが怯む様子はない。
「銃下げてくれない?」
「貴方、名前は?今は非常事態ですよ、何故逃げずにいるんです?」
「名を訪ねるならまず自分からって教わらなかった?」
少しずつ近づいてくる少女は剣を一本腰に下げていた。
「……騎兵隊イストサイン支部所属のレガリアです」
「思ったより素直じゃん。フフッ!私はメトラタ中央都マルスサイン所属、王に仕える騎士の一人!」
笑顔で喋り続ける彼女には悪いが、彼女の背後からやって来る大きな鎧に私の注意は向けられた。
「ファルナレギア・エンブレスピカよ、ファルナって呼ぶと──」
彼女の背後に立ったグラドミスの鎧が得物の斧を振り上げた。すぐさまファルナと名乗った少女を庇い、原石糸を放ち鎧の動きを抑えようとする。
「ああもう人が名乗ってるって時に!」
鎧の力の方がはるかに強い、勢いを弱めたが斧が私たちのすぐそばに振り下ろされた。
「すごいねこの鎧、漆黒鉄で出来てるの。よく動いてるじゃない」
「言ってる場合じゃ……」
彼女はイグドラの騎士だと名乗ったが見た目もあってどうにも頼れる気がしない。
鎧が身体を振り回してきた。咄嗟のことで糸を放す事が出来ず、私の身体が通りの石段に叩きつけられた。
(やばっ……!)
一瞬視界が眩む、その間にも鎧は動きファルナに襲い掛かっていた。
「ふーん、じゃあこれが裏切り者の操り人形なのね」
落ち着いた様子で鎧の攻撃を避け、彼女が地面に手を当てる。
彼女が手を引くと、彼女の手に吸い寄せられるように三本の剣が浮遊していた。
「レガリアって言ったわね」
そのまま赤茶けた剣が彼女の周囲を浮遊する。
「貴女は幸運よ、王家を護る騎士の技を見られるんだから」




