毎日思うんですよ、職場に私なんて必要ないって。居てもいなくても変わらないって:1
「何してるの?」
「どひゃあ!」
夢の中で声をかけられた。
突然視点がひっくり返り、ベットで寝ていたはずの塔子が目の前に居た。
「レガリアの街、大変な事になってるんでしょ?早く戻らないと」
「えっ……いやどうして喋れるの?この場所何なの?私今どうなってるの!?」
事無さげに話しかけてくる塔子を見て頭が混乱する。夢の中で彼女と話すなど前代未聞の事だ。
「アンタは私の生まれ変わりだけど、人格も魂も別だから話せるのよ」
「えっえっ?塔子死んでるんじゃないの?」
「早死にしたからね、成仏出来ずにアンタの側揺蕩ってんの」
なんとも無さげだが、死んだと言った彼女の表情が少し憂いを帯びた。
「アンタのこともちゃんとわかるよレガリア」
「……ここは何処なの?」
「私の記憶だよ。私に『先』は無いから、思い出に浸るしか出来ないんだ」
死んだ彼女が浸る思い出つまりここは死後の世界か何かなのか、そんな場面でやたら意識の鮮明な私が居るという事は──
「もしかして私……あのままグラドミスに殺されたの?」
「死んでないよレガリア」
顔を覆って床に突っ伏した私を塔子が立たせてくれた。
「でもちょっと大変、レガリアの身体が傷ついてる」
「ああ……お腹痛い気がする」
まだ死んでいない、じゃあこれは走馬灯でも死後の世界でもなく、痛みのショックで気を失った束の間の幻なのだろう。
「死んでほしくないから、丈夫な体にしてもらったのよ」
塔子が私の顔を覗き込んできた。
「だから君は死んじゃダメ」
気合いを入れるように私の頬を軽く叩く。
「私、もっと生きたかった」
夢の中に居ると感じる塔子の心からの言葉、気持ち。
「いつも一緒にいるからね」
(お腹痛い)
この痛み、意識が現世に戻ってきた。
意識せずに体が動く。原石の糸が伸びて、私の手に原石銃が収まった。そのまま指が引き金を引く。
「な……馬鹿なっ!」
私を抑える手が緩んだ。
銃弾が破砕したのは私を抑える自動鎧。外殻を完全に破壊され、辺りに肉片が飛び散った。
「よくもまぁ、やってくれる!」
飛び退いたグラドミスが影から武器を作ろうとしている。
(逃げるしかない)
重い身体を動かし、ベランダから飛び降りた。
落ちる瞬間、グラドミスと視線が交錯する。
(さっきのは幻……だったのかな)
身体を重力に任せ、夜の空へ踊り出す。
(塔子、私頑張るよ)
私がやりたい事、出来る事を精一杯してみよう。
頭から石段に落ちた。脳が揺れ意識が揺らぐ。
「はー……逃げないと……」
すぐに走り出したいが重い漆黒鉄の鎖が私の手足を繋いでいる。
「うげ……」
それにお腹も痛み出した。開いた傷口からグラドミスが打ち込んできた黒い触手のような破片が血に混じって溢れてくる。
この身体を引きずってどこまで逃げられるだろうか。
「見つけましたよ」
誰かの声、聞こえた瞬間足枷の鎖が砕けた。
「ロスさん!?」
後ろにはいつもの杖を携えたロスが立っていた。
「君も私も、悪運が強いですね」




