仕事やめたい……4
街に恐怖のざわめきが広がりだした。
「貴様にこの光景を見せてやりたかった」
(悪趣味な奴)
「最後に聞いておこう」
グラドミスが顔をこちらに向ける。
「私に協力する気は?」
思考が巡る。形だけでも首肯すればこの場はどうにかなるかもしれない。いやでも隊長にもロスにも悪いような、私のプライドも邪魔してくるような──。
「フ……貴様の意志など要らんな」
グラドミスの手が私の胴、銃で撃たれた場所を抉った。
「──っ!」
指が傷口を突いて身体の内側に侵入してくる。
「そうか、内側は通るのか」
鉄糸の防壁は突き破られ、グラドミスによって傷口を広げられる。
腹に重い異物感がある。グラドミスの腕から出る影の触手が私の内側を侵食していく。
「さよならだ、確か……レガリアだったかな」
視界だけが正常な中、意識が暗転していく。
「君がグラドミスだね?」
私の前で男が言った。
「はじめまして、私は君の血縁者なんだよ。ようやく見つけた」
男は私を遠い血縁であると言ってきた。
孤児の自分を引き取りたいと申し出てきた男だ。
「これからよろしく頼むよグラドミス……アードミルド」
アードミルド、確かそう男は名乗った。
「今日から、君と私達の苗字だ」
男は私に色々なことを教えた。読み書きに立ち振る舞い、教養、技術、全て必要な事だと男は言った。
「くそっ……どうしてなんだ!どうして母さんを殺さなければならない!」
その日、男は荒れていた。家に帰るなり家具に、壁に、私に当たり、何度も私を怒りの目で見て。
「どうして……貴様ではないんだ……!」
泣いていた。
ある日から、男はずっと家に居るようになった。
「グラドミス、見てみろ」
男は自分の身体から黒い糸を出した。それだけではない、男は糸から黒い鎧を作るようになり、鎧が一式出来るとそこに何かを詰めていた。
「いつかその時が来る、これは準備だ。我が一族の為……いや、私の為、お前の為に……だが、まだ足りない……我々の憎しみは……」
男はよく頭を抱えていた。




