仕事辞めたい……:3
「どこまでも腹立たしい女め」
「私もアンタが心底ムカつくわ」
お互い嫌いあっているという点で私とグラドミスは同じだ。
「……この重いの外してくれない?腕が上がらないんだけど、もしかして漆黒鉄?そんなに私が怖い?」
鎖をガチャガチャ鳴らしながら挑発するが無視された。
「……時間だ」
グラドミスが崩れかけた右腕を振る。同時に先程私を運んだ鎧が部屋に戻ってきた。手には赤い銃を持っている。
「原石銃……?」
「貴様の銃だ」
鎧が私に銃を向ける。
「頭を撃てば、さすがの貴様も死ぬだろう。だが貴様にはこれからやってもらうことがある」
再び鎧が私を持ち上げ、グラドミスと共に部屋を出た。
「こんどは何処よ?もう帰してくれな──」
「喋るな、腹が立つ」
鎧から出てきた影に口をふさがれた、グラドミスはかなり自由に鎧を操れるらしい。
階段を上がり、ベランダに出た。結構高い位置にある建物のようでベランダから夜のイストサインを一望できる。
時刻は深夜だろうか、街灯が街中を淡く照らすなかなか良い夜景だ。
(こんな状況じゃなけりゃ楽しめたかもね……)
「始めよう」
グラドミスが言うと同時に、彼の背中、頭、足元、から黒い糸のような影が夜空へ飛んだ。
「私は常に影達と繋がっている」
(……あの怪物たちは全部グラドミスの一部だった)
「いよいよ開演だぞ。喜べ騎兵、貴様は特等席で私の劇を眺められる」
(まさか……!)
グラドミスが大仰に手を叩く。
同時に街中から建物が砕ける音がした。
(鎧だ)
昼間見た漆黒鉄の鎧、蒼鉄の鎧、影の人型達。
複数の建物から出たグラドミスの傀儡がイストサインに解き放たれた。
「言ったはずだ」
原石の糸を使ってどうにか逃げようとする私の顔を掴み寄せ、グラドミスが笑う。
「貴様の家族も、友人も、そうだな……故郷も私が奪ってやる」




