そういえば、集合時間に間に合いそうにないな……隊長どうしてるかな……:2
夕刻、イストサインの騎兵支部。
「……ない」
カティアはとある書類を前に思案していた。
「隊長、引き継ぎに来ました」
会議室の扉が開き、騎兵隊のメンバーが数人入ってくる。
「ご苦労、初めてくれ」
カティアは書類を閉じ、隊員と向き直る。
その書類は、イストサインに住む騎兵の個人情報を記した物だった。
隊員は日誌を片手に連絡事項を述べていく。
「──それと、昨晩から黒い幽霊の目撃情報が多数あります」
「幽霊だと?」
「はい、住宅街を中心として目撃情報が多数上がっています」
「それについて詳しく調べてくれ、場所と時間帯を重点的にな。グラドミスの件で間違いない」
「了解です。最後に、ロックさんは昼一番の列車で中央に向かいました」
「ああ、それは聞いてある」
カティアが再び騎兵の名簿を開いた。
「ブランドン、この名簿からレガリア写真が消えているんだが、何か心当たりはないか?」
「ええ……?ありませんね」
ブランドンと呼ばれた騎兵に心当たりは無い様子だ。
「そうか……ご苦労。お前は夜勤だったな」
「はい」
「しばらくの間、夜間の巡回警備はしっかりと頼む。信号弾や緊急の通報があれば細心の注意を払え、個々の情報伝達もしっかりな」
「了解です」
伝達が終わり、カティアは帰り支度を始める。
資料を整理し、棚に戻していくだけが、右腕を骨折したカティアの動きは覚束ない。
「……大変そうですね」
「全くだ」
骨折した腕を吊り、歩行するのに杖が必要なカティアを見てブランドンが手を貸す。
「ありがとう」
「しかし……騎士が相手だなんて厄介な件に首を突っ込んじゃういましたねウチも」
「……不安か?」
「いえいえ、そんなことは全く。隊長見てたら不安なんて感じてられないっすよ」
「そうか」
「隊長は早帰りですか?」
「……いや、仕事の一環でキャンドナに行くんだ」
時計を見る。時刻は7時を指していた。
「そっちの方に応援は?」
「……そうだな、9時ごろ付近に巡回で来てくれ……あまり刺激したくない相手でな、緊急になれば信号を出す」
カティアが支部を出る。辺りには夜の帳が下りていた。
歩き方がぎこちないが、彼女の足は早い。
キャンドナに着くと、店内は既に客でごった返していた。
「いらっしゃいませ」
カウンターから初老の男が挨拶する。
(ロスは居ないな、レガリアもまだか)
カティアは空いているカウンターに座る。
「紅茶とミルクを頼む」
「はい、他に何かお付けしましょうか?」
「他……じゃあそのジャム入りクッキーを頼む」
「わかりました、少々お待ちください」
店長……ではなく店員の一人らしいその男は奥へ引っ込む。
(しばらく休めるな)
カティアは目を閉じる、どこでも休めるは彼女の特技だった。
「──隊長さん、隊長さん」
しばらくして、カティアは何者かに声をかけられた。
「……何だ?……お前は」
カウンター越に彼女に声をかけてくる男、間違えようもない、先程まで鬘を被り店員に変装していた男。
「ヴィルヘルム……!」
カティアが臨戦態勢に入る前に、ロスが言葉を続けた。
「隊長さん!レガリアちゃんを見かけてませんか!?」
「……なに?」
ロスの言葉に、カティアも驚いていた。




