夜勤前は寝るに限るのです。寝ないとやってられないのです:4
グラドミスが降り立つ瞬間、原石銃を構える。
銃が熱を帯び弾丸を放とうとする。
だが、引き金を引けない。
「なんで……!」
指に真っ黒な触手が絡み付いていた。
「今度は逃さん」
グラドミスの声だ。
鎧は着ていない、昨夜見た時と同じ姿のようだが服の上から漆黒の手甲と胴当てを装備している。奴の鎧、原石武器の一部だろう。
触手が私を引きずろうとするが原石銃の糸が触手を断ち切ってくれた。
急いで奴から距離を空ける。夜道を駆け、家屋の物陰に隠れつつ様子を伺う。
(相手は戦争の英雄……正面から戦っても勝ち目はない)
「見えているぞ」
暗闇から奴の声が聞こえた。足に触手が絡みついてくる。
「私を誰だと思っている。夜は私の時間だ」
糸が触手を断つ、隠れ続けることも出来ないとなるともう打つ手がない。
「どうしてこんなに私に執着するのよ!」
「用があるのは貴様の力だ」
「武器なら立派な物をお持ちじゃないの!」
グラドミスに糸を放つが触手を何本か切っただけだ。
「貴様は理解していないのだ。どれだけ重要な能力を腐らせているのか」
迫ってくる触手を原石の糸に任せ、グラドミスに銃弾を放つ。
だが、彼の周囲に集う影達が肉壁となり銃弾が届かない。
少しずつだが、私は己の意志で原石銃を扱えるようになってきている。
けれど、初めてこの銃を撃った時、そしてモンドを助けた時のあの威力には届いていない。
(あんまり強過ぎるなのは困り物だけど)
この窮地を打開する為にはグラドミスを怯えさせるほどの銃の破壊力が欲しいのも確かだ。
影の触手が減ってきた気がする。グラドミスはこちらを攻めあぐねている様子だ。
(……そういえば、アイツの影って無限なの?)
グラドミスが鎧の力を引き出す時は常に死体や肉片が辺りにあった。
(アイツの周りの影を倒していけば、いつかは息切れする)
自分の周囲を糸に守らせたまま、グラドミスの周りに影達に銃弾を撃ち込んでいく。
(今、奴の戦力を削っておけば──)
「貴様を殺す方法を考えていた」
こちらの様子を伺っていたグラドミスが、口を開いた。
「思い至ったのは、その銃だ」
奴が懐から一丁の拳銃を取り出した。




