夜勤前は寝るに限るのです。寝ないとやってられないのです:1
身体が痛い。
視界が暗転し全身の体温が上がる、嫌な汗が噴き出す、立っていられなくなる。
「塔子!?大丈夫?」
母の声、私の意識ははっきりしているが返事を返せない。
(嫌だ)
覚えている、これは塔子が死ぬすぐ前の夢だ。
早く目覚めないと死んでしまう。
死にたくない、早くこの痛みから逃れたい。
サイレンの音、私を呼ぶ声、恐怖。
ぶつ切りにされた塔子の強い感情が、私に流れ込んでくる。
目が覚めた。
寒い。背にじっとり嫌な汗をかいている。
(そっか、家帰ってすぐ寝ちゃったんだ)
鼻をかむたびにくしゃみが出る。くしゃみするたびに寒気が走る。
(風邪ひいてないよね……)
寝覚めが悪い。まだ痛みが残っているような気もするし死への恐怖感も拭えない。
(やな気分……これから仕事なのに)
外を見ると夕暮れ時だった。
(なんだか落ち着かないな)
夜の闇の中でグラドミス達に追われたからだろう。暗闇を見ると胸騒ぎがする。
「……母さん?」
家の中は暗い。着替えてからすぐ寝てしまったせいか戸締りも点灯もしていなかった。
(まだ帰ってこないの……?)
母の仕事は夕方には終わる、いつもなら家で夕飯の支度等をしている頃だが。
「うう……遅いだけだよね」
不安だ。制服に着替えている最中も胸騒ぎが収まらない。
「買い物とかのはず、それか仕事場の人と呑みに行ってるとか……」
思考はぐるぐる周って妄想が暴走する。行き着くのは不安の在処、もしも母が奴に狙われていたら。
(もうグラドミスに殺されてたら……)
考えに至った瞬間、居てもたってもいられず動き出す。
(まだ時間はある、母さんの職場に行って安否を──)
「ただいまー……どうしたの?」
玄関の前、ドアを思いっきり開けようとした瞬間に母が帰ってきた。
「……お……おかえり……どこ行ってたの?」
「買い物」
じゃがいもが沢山入った袋を渡された。




