休日って時間はすぐに過ぎていく物なのに今日は嫌に長く感じる……1
広大な地下空間に戦争を起こせそうなほど武器がある。また一つグラドミスの余罪を見つけた訳だ。
「とりあえず、これも騎兵隊に報告しますね」
「それが良い、出来れば全部破壊したいんですがね」
銃器を物色しながらロスが言う。
「私、そろそろ戻ります。夜にはゆっくり話ができますよね?」
「勿論ですよ、ちなみにここ埋めちゃうのでとっとと……」
ロスが言葉を切った。
「どうしました?」
「静かに」
冷たい地下に静寂が満ちる。ただ、何か小さな音が聞こえた。何かが崩れるような、漆喰が剥がれるような音。
「レガリアちゃん、入り口へっ!」
ロスが言い終わる瞬間、地下の奥から巨大な刃物が飛んできた。
命中することはなかったが、私たちの背後に落ちて地下室が揺れる。
「……何ですかアレ」
地下室の奥からやってくるそれは、巨大な鎧だった。
中に人が入っているかのように進む。黒い甲冑、漆黒鉄製だ。
「まさか……グラドミス?」
「いや、違う。そもそも……」
ロスが杖を構え、物言わぬ漆黒鉄の鎧に向き直る。
「中に人が入っていると思えない」
巨大な鎧は両手に剣を携えている。
「……止まりなさい!」
銃を構え、警告する。意味があるとは思えないが一応やっておく。
「君も真面目な子ですねぇ」
ロスが呆れたように言う。
「…………」
鎧は何も応えず、私めがけて剣を振りかぶった。
「うわうわうわうわっ」
パニックになりかけるが相手の得物をしっかりと見て、距離を空ける。剣が床を穿ち、部屋全体が揺れる。
「こわ……」
「危ない!」
ロスの声を聞いたと思うと横から凄まじい衝撃を受けていた。数秒脳が揺れ、意識が朦朧とする。気付けば地下室の壁、刀剣類が立て掛けられていた場所で武器の下に埋もれていた。頑丈な体質でなければ全身からから血が噴き出ていただろう。
「そうね……二刀流だったんだよね……アハハ……」
己の不注意さを呪いたい。まだ揺れる視界を持ち上げると鎧はロスの方へ向かっていた。
「グラドミスめ……大層な発明を……」
鎧の動きは単調で遅い、ロスは危なげなく避けている。
「自動人形ではなく自動鎧と言うべきですかな?」
鎧の腕に糸を巻き付け少しずつ動きを抑制していく。
「戦以外に使えば素晴らしい発明になっただろうにっ!」
鎧の動きは重くなっていくが止まらない。
「ロスさん、そいつ置いて逃げましょう!」
「そうしたいのは山々なのですがね」
ロスの眉間には皺が寄り、汗が浮かんでいる。焦っているのか。
「この力……グラドミス以上か……!」
自動鎧に照準を合わせ、原石銃に意識を集中する。銃はすぐに熱を帯び始めた。
深呼吸をし、鎧の腕向け引き金を引いた。大きめの爆発音が地下に響き鎧の腕を穿つ。
「やった……!」
鎧の力が少し衰えたようだ。続けて両脚、胴体と続けて撃ち込む。
銃を撃つ度反動で腕の骨が軋む。グリップも溶鉱炉のような熱さだ。
「見事!」
ロスの声、原石銃は装弾数の六発を既に撃ち尽くした。痛みに歯を食いしばりながら鎧を見ると、ロスの糸によって吊り下げられていた。
「どうにかなりました……?」
「ええ、まだ停止したわけではなさそうですが」
砕けた鎧の脚から粘度の高い塊が溢れる。
「あれって……」
そこから異臭が漂い始めた。
「奴の魔術……死体のようですね」
昨晩、モンドの村で同じ匂いを嗅いだ。排泄物と腐った肉を混ぜたような嫌な匂い、死臭。
「早く出ましょう、もうあんなの相手にしたくない」
「……それが良いと思うんですが、アレを見て少し興味が湧いちゃいましてね」
そう言いながらロスが鎧に近づく。よせばいいのに鎧から出た肉片を杖で突く。
「うわぁ……鼻がひん曲がりそうですよ」
吐き気がしてきた。
「……腐っているが外の方は固い、何かで固めているのか?それにこの大きさは……一人分ではないのか」
「おぇぇぇぇ……」
吐いた、もう耐えられない、ドロっと滴る肉片を見るのも、寒い地下室で死肉の匂いを嗅ぐのも。
「レガリアちゃん君はもう帰っても……」
地下室の静寂をパラパラと何かが剥がれる音が乱す。
「……あれ一体ではないのか」
「うそでしょ……」
部屋中に安置された鎧が動き出そうとしている。
「撤収!」
ロスが階段を駆け上がる。まるで稲妻のような速さだった。
「ちょと待ってっ……」
まだ痛む肩と手を振り、必死になって地下室から逃げ出した。




