休みだ!なにしよう!とりあえずご飯食べてから考えよう:2
緋鉄製の保温機の上に乗った缶からコーヒーを煮出す良い香りが立ち込め始めた。
「ところでレガちゃん、その手から生えてるの何だい?」
「はい……?うわっ」
気付かぬうちに左手から白い糸が伸びていた。
「勝手に出てくるんじゃないの!」
戻るよう意識すると引っ込んでくれた。特に誰かに危害を加えるようではないが側から見ると気持ち悪い。
「……白輝鉄か何か?」
原石武器の侵食はおおらかに受け止めようと考えていたが、いざ影響を見ると焦りが生まれてきた。
「わかんないです……昨日からこんな感じで……」
「そうなのか、コーヒーどうぞ」
店主がカップに入ったコーヒーを差し出してくる。カウンター脇に置いてくれた椅子に腰かけ、熱いコーヒーを一気に飲み込む。香ばしい苦味とのどが焼ける感覚が冷えた身体と冷たい心を温めてくれる。
「もう一杯ください」
「よく飲むねぇ、騎兵の仕事は大変なんだな」
「本当に大変なんですよ!昨日なんて──」
記憶が蘇る、動く黒い影たち、私が粉砕した身体、飛び散る肉片にグラドミスが立てる翼の音──
「もう一杯ください」
「はいよ、ミルク淹れる?」
「いらないです」
コーヒーを飲む、口の中でゆっくり程よい苦みを味わう。
「……私、騎兵の仕事続けられるかな」
「唐突だね」
仕方ない、突然口から出てきたのだ。
「レガリアちゃん、騎兵になってどれくらいだっけ?」
「半年です」
「半年か、まあ色々考えるよね仕事始めたての時期は」
訳知り顔で店主は頷いている。年長者の余裕というヤツだろうか。
「おじさんもあったねぇ、そういう時期。自分の仕事に意味はあるのかとか、一生同じ事続けていくだけなのかとか」
おじさんの長い話タイムが始まった。聞き流してしまおう。
(……怖い、またロスと話すのも、グラドミスが私を狙ってるのも)
思考が巡る、どうしようもない悩みが頭を巡る。
(私はいいけど……隊長は大怪我を負った、私が巻きこんだ、モンドさんの村も)
私はどうすればいいのだろうか。
「まあ何かするならお金溜まった後が良いよ、この屋台も貯金のおかげで回せてるから」
「そうなんですか、コーヒーもう一杯ください」
「はいよ」
休み中に悩んでどうする。グラドミスもロスも来るときは来る、その時どう立ち向かえるかは未来の私次第だ。
この屋台、お茶は飲めたものではないがコーヒーはすごくおいしい。半分混ぜ物で嵩増しているらしいが。
屋台通りに少しずつ人が集まってくる。昼時だ、そのうち屋台に行列ができるだろう。
「いらっしゃい、何になさいます?」
「紅茶をいただけますか?」
(この屋台でお茶を!?)
薄いだけならまだしも謎の酸っぱさとしょっぱさがあるこの屋台の紅茶を頼んだ人物は一体──
「どうもレガリアちゃん」
「は?」
今日は労働者風の衣装くたびれたシャツに黒いズボン、サングラスをかけた初老の男性──に扮したメトラタのスパイ、ロスがそこに立っていた。




