仕事終わったらすぐに帰っていいんですよね?それ期待しながら頑張ってるんですけど
『メトラタから来た旅行者とヴィルヘルムの接触だけは避けねばならん、最優先事項は両者の確保又は殺害だ』
間違いない、今朝のミーティングで見た旅行者だ。
まだこちらには気付いていない。
(あーあ、1番に見つけちゃった)
早く帰りたいという気持ちを抑えられない。
(コイツ捕まえたら、今日は帰れるかな)
仲間に知らせを送る為の音響弾を装填した銃に持ち替える。
(早く帰って休みを満喫したい……)
音響弾を空に向けて放った、キーンと鈴を割ったような音が辺りに響く。
灰色のコートを着た中年の男がこちらを振り向いた。
「アルフレッド・グライスさん……ですね」
拳銃を構え、近付く。
「手を上げください、ヴィルヘルムの件で連行します」
正直なところ、緊張している。
騎兵学校で的に銃を撃ったことはあるが、訓練以外で人に銃を向けるのは初めてだ。
「……わかったよ」
アルフレッドがゆっくりと手を上げる。
(抵抗なし?)
こちらが気を緩めた瞬間、振り向いたアルフレッドが襲いかかってきた。
(やっぱりっ)
拳銃の引き金を引く、鉄の弾が彼の胴部に命中した。
(倒した?)
銃弾は外れなかった、急所は外したが殺すのが目的ではない、せめて戦闘不能になってくれれば──
「顔を狙うんだな新米」
アルフレッドは平然と向かってくる。
胴当てでも付けていたのか、負傷した様子はない。
距離を詰められ、拳銃をはたき落とされた。
彼の袖から短刀が覗いている、刃から独特な赤色の光が放たれる緋鉄の刃だ。
緋鉄──色鉄四つの加工先の一つ、軽く頑丈な万能の金属。
ナイフの切っ先が向かってくる。
腕で防御する、事前に腕に付けていた蒼鉄の手甲がナイフから皮膚を守ってくれた。
蒼鉄──緋鉄より頑丈な衝撃を受け流す青色の色鉄。
そのまま格闘戦に移る。
(大丈夫……落ち着いて相手の動きを見るの)
騎兵学校受けた格闘戦の訓練を思い出す。
(見るべきは相手の目線、凶器の位置、手足の動き)
私とアルフレッドの腕がぶつかり合う。
(この手応え……蒼鉄の防具だ)
先程銃弾を弾いたのもこの防具だろう。色鉄は鉄を通さない。
(落ち着いて、落ち着いて相手の動きを見るの、怪我はしない、コイツを殴り倒す!)
膠着状態を避けてか、アルフレッドがナイフを捨て、距離を取った。
(逃がさないっ)
アルフレッドが飛びかかろうとする私を前に、懐から何かを取り出した。
彼の手には拳銃が握られていた。
その銃口は、私の顔面に向けられている。
「すまないな、嬢ちゃん」
銃口から弾丸が飛び出し、私の額に命中した。
けれど、私の拳は止まらない。
「どりゃああああ!」
狙い過たず放たれた鉄拳は、アルフレッドの顔面を殴り飛ばしていた。