これは仕事中……?それともオフ……?
今日は退院の日。
薄味の病院食やスマホとテレビと読書のみが娯楽の生活から離れられる日だ。
一週間ほどの検査入院だったが、入院生活はいつも長く感じる。
「次は二週間後ね」
寝巻きを鞄に詰めながら母と話す。先の事は考えたくないが、そうも言ってられない。
「それまでに甘い物毎日食べてやるわ」
「ほどほどが大事よ、それと家じゃ体調が悪くなったらすぐ言うのよ」
「はいはい、わかってるわかってる」
早く帰りたい。元の生活に戻りたい。
真夜中に目が覚めてしまった。
「……うーん……ぅぅ……」
二度寝したい。しかし頭が冴えてくる。
なんだか落ち着かない。汗ばんだ服が肌に張り付いて気持ち悪い。
「……何処ここ」
イストサインの家ではない、支部でもない。
木造りの部屋、簡素な寝床で寝ていたようだ。
「隊長……?」
すぐそばの椅子で隊長が眠っている。
骨折した腕を三角巾で吊っているから椅子で寝るのだろう。
すっかり目が覚めてしまった。隊長を起こさぬようゆっくり動き、外に出た。
(そうか、ここはモンドさんの村……)
私が先程まで寝ていた家屋の外、村の中央に火が焚かれ数名の騎兵が立っている。
「おや、レガリア起きたのか」
焚き火のそばに何かの袋を置いた男性が声をかけてきた。
「副隊長」
イストサイン支部の副隊長、カスピアンさんだ。
「……災難だな、隊長とツーマンセルなんてよ」
「あの……その袋は……」
「村人だよ、一部だが探せるだけ探してんだ」
焚き火の側には既に幾つもの袋が置かれていた。赤い液体が滲み出た物もある。
「隊長が夜勤の面子はここに来るようって言う書き置きをしてあってな」
(そんなの残してあったんだ)
「列車で駆けつけたら駅に大層慌てた男が居てな、村がどうとか騎士がどうとか」
あの時はトントン拍子に行動が決まったが、隊長はしっかり根回しをしていたらしい。
「そしたら森から砲撃音がするって事で急いで来たんだ」
「あの……ここで起きた事は」
「ああ、隊長から聞いてある。あの人も重傷だしお前も起きなかったからな。今日はここで村人捜索しながら泊まりだ」
カスピアンが緋鉄の水筒を渡してくる。保温機能がついた水筒には熱いお茶が入っていた。
「ありがとうございます」
「レガリアと隊長は明日の列車に乗ってイストサインに戻ってくれ。報告書が待ってるぞ、俺達はここで被害の確認だ。」
何かを思い出したかのようにカスピアンが鞄から何かを取り出した。
「そうだ、これエドガーが郵便にあったとよ」
「私宛……ですか……」
嫌な予感がする。
渡されたのは、何処かで見たような簡素な手紙。
『同じ場所で、同じ時間に』
もう今は何も考えたくない。とにかく寝床に戻って意識を失いたかった。




