出先で泊まり込みですか……:2
暗い森に少しずつ人の気配が立ち込め始めほっとしたのも束の間だった。
「……クク……ハハ……これは驚かされた」
グラドミスが立ち上がっている。
「なっ……!」
あれだけの衝撃を受けたのだ。最低でも気絶くらいはしたと思っていたのだが。
鎧の下の彼の風貌は異様だった。
貴族らしい高級そうな外套を身に纏っているが、各部から黒い液体が滲み出ている。
「鎧まで壊されたのは……久しぶりだ……」
流石に隊長の砲撃は平気ではなかったようだ。朦朧とした意識の中やっと動いているようだ。
「……レガリア、さっきの銃はまだ使えるか?」
隊長が尋ねてきた。原石銃は変わらず手元にある。
「グゥゥ……痛いな……痛いじゃないか……!」
頭が痛むのか、険しい顔をして額を押さえている。
彼の顔面には無数のひび割れが走っている。昨日素顔を見た時は病人のような白い顔をしていたが、厚化粧が剥がれたように顔の内側から黒い影が浮かんでいた。
「おーい、カティアさーん!レガリアさーん!どこですー!」
モンドの声だ。その他複数人の声も続いて聞こえる。
空中に光が飛び始めた。
「ありがたい……!閃光弾だ」
夜間に使われる光の弾だ。隊長は武器に使っていたが、普通は信号用に使われる。
彼に向け原石銃を構える。
臨戦態勢を感じたのか。周りを鉄糸が飛び始めた。
「グラドミス!もう終わりです」
赤く輝く原石銃を見て、彼は怯んだようだ。
「……覚えていろ平民。それは私の物だ」
グラドミスが吠えた、再び彼の背から翼が生える。
彼を中心にして突風が巻き起こった。
砂埃が辺りに立ち込める。
「……逃げたな」
隊長が呟く。目を開けるとグラドミスの姿は無く、暗い森があるばかりだ。
少しずつ、人の灯りが近づいてくる。
「カティアさん!レガリアさん!」
モンドの声、聞き覚えのあるイストサインの騎兵の声。
緊張の糸が切れたのか、身体から力が抜ける。
誰かが私を支えてくれる。
「レガリア、立てるか?大丈夫か?」
頭はぼんやりしていたが、隊長の声はしっかり響いた。




