上司頼りってのが楽なんです。自分で判断して動きたくないんです。それじゃあダメでしょうか……いつまでもこの調子なのはダメなんでしょうね……:5
「理解しただろう。立場も、力の差も、私の目的も」
崩れ落ちそうな隊長を支える。満身創痍だが腕には力がこもっている。
「その銃は貴様が生み出した。普通の銃を貴様の力で書き換えたのだ」
隊長はまだ戦う気だ。
「貴様には価値がある。私の下で働け」
(やかましいなこの爺……!)
既に私はグラドミスを信用していない。最初の勧誘の時点でモンドの村を滅ぼしていたのだ。
「……返事が無いな」
足元に槍が飛んできた。
「決めろ、騎兵」
もう時間がない。
「……せめて名前を憶えてくれませんか?」
眼前に大量の礫が飛んできた。
私の銃が反応し、鉄糸が礫を弾く。
(……この銃から出る鉄糸、便利だな)
こんな時だというのに、関係ないことに意識が向く。
「貴様ごとき名を覚える必要はない」
(白輝鉄糸の訓練……こんなに自由に動くならもう必要ないな……)
「もう一度聞く、これが最後だ」
『もう一度やってみろ』
訓練室での隊長の声が頭に響く。
私と隊長の周りを、何本もの鉄糸が周っている。
少し意識を合わせてみると、自由に動く鉄糸。
ロスもこんな風に鉄糸を操っていた。
(──あ)
記憶の糸から、グラドミスとの戦いが浮かんだ。
「騎兵、私の配下に──」
「断ります」
この原石武器の白輝鉄糸は自在に動く。
「……なんだと?」
「……貴方に着く気はない……それだけ言えば充分でしょ」
後はどれだけ奴の注意を逸らせるか。
「そもそもメトラタのスパイに出し抜かれたバカが、クーデター成功させられると思ってるの?ロスも言ってたけど本当に頭が無いんですね!」
グラドミスの背中から巨大な腕が顕現した。
「レガリア……お前……」
「隊長、できる限り身を隠してください。考えがあります」
巨大な腕が迫ってくる。
「奴は私がひきつけますかぐはぉあ!」
影のパンチを受け、樹木に叩きつけられた。
「もういい、まず貴様を連れていく。その後貴様の家族、友、全て我が傀儡に──」
銃の引き金を引いてみた。
さっきは弾が装填されていなかったので、ちゃんと銃弾を込めなおしてだ。
ただの銃弾が発射される。
それに合わせ銃から鉄糸を飛ばす。
(起点は後ろの樹、次は両脇、背後、上からも下からも)
「まるで使えていないぞ!そんなものが原石武器か!」
今度は影の鞭を飛ばしてきた。また私を地面に埋める気なのか。
落ち着いて攻撃を躱す。鎧を着て鈍重な動きのグラドミスを翻弄するように、周囲を動く。
(──最初に撃った時は偶然)
鉄糸を樹の幹、枝に引っ掛ける。
(──二回目は、無我夢中。でも目的はあった)
鉄糸を鎧に飛ばす。狙いは隙間、関節。
(この銃が私のイメージ通りに機能するなら。必要なのは……目的意識、かな?)
少し、銃身が熱を持った。
「潰れろ!」
グラドミスが巨大な腕を向けてきた。
(落ち着け……的は大きい)
照準を合わせ、引き金を引く。
確かな反動と共に銃弾が飛び出し、影の腕を弾いた。
(出た、原石武器の弾丸……!)
「ハハハ!なんだその威力は!まるで足りていないぞ!」
グラドミスが笑う、だけど既に準備は整っている。
(あとは銃から出た鉄糸を引くだけ──)
原石武器に命令を下す。
熱を持った私の銃は、私の思考に応えてくれた。
「……なっ!」
グラドミスの鎧、森の木の枝、幹、辺りに張り巡らせた鉄糸がグラドミスの身体を持ち上げようとする。
しかし──
「……っ!なんでっ」
グラドミスは足を地に付けている。持ち上がりきっていない。
「……っそうか!ロスの真似事か騎兵!少しは見直したぞ、だが貴様だけでは奴に足りない──」
「いや、足りている」
隊長の声だ。
私の張ったものではない鉄糸が、グラドミスの首に巻き付いている。
「上出来だぞ、レガリア」
折れた腕で鉄糸を操り、隊長がグラドミスを吊り上げた。
「なんだと……!?ぐぁあああ!!」
グラドミスの巨体が持ち上がる。
(あとは……あの鎧を壊すだけの威力)
グラドミスは持ち上がっているが、重さに耐えきれず鉄糸も木々も悲鳴を上げている。
(鎧を壊すだけでいい!)
目的意識を持ち、銃を構える。
赤熱を始めた銃の引き金は自然と動いた。
「ぐぅ……貴様、やめろ!平民が!」
大砲のような音と共に、銃弾が放たれた。
グラドミスの身体、鎧の胴に命中した部分から放射状にヒビが広がった。
次の瞬間、隊長が動いていた。
右手を握り締め、グラドミスの腹に拳をいれる。
彼女自慢の手甲、その引き金を引く音がした。
手甲の砲身から色鉄の弾頭が飛び出し、ゼロ距離でグラドミスの身体を打ち抜く。
辺り一面に、漆黒鉄の破片が飛び散った。
鉄糸が断たれ、グラドミスの身体が吹き飛んでいく。
(……隊長、格好いいな)
ほっとしたと同時に疲れを感じ、地面にへたり込んでしまった。
戻ってきた原石武器の鉄糸が、いたわるように私の周囲を漂い始める。
左手の銃は私の脱力感を感じてか熱がすっかり引いている。
「……君、原石くん。私を助けてくれたのね」
原石武器は何も反応をよこさない。
「……ありがと、これからよろしくね」
武器に挨拶をするのは妙な気分だ。




