上司に大事な情報言っとかなきゃなのになのに言えないことってよくありますよね
イストサインは寒い、今は夏だから雪は積もっていないが風は身を切るような寒さだ。
私とカティア隊長はヴィルヘルムが下りる予定のイストサイン駅にいた。
「…………」
「…………」
会話は無い、まだ列車が来るまで時間はある。
「レガリア、母君は壮健か?」
「はい、元気ですよ」
いつもの会話の切り口で隊長が話しかけてきた。
「そうか」
いつもの会話だった。あと何個かバリエーションがある気がするが5割はこんな感じだ。
『列車が到着します』
伝声管が列車の到着を知らせた。
「来るぞ、準備しろ」
隊長が拳銃を腰のホルスターから取り出し、私もそれに倣う。
大音量を立て、蒸気列車が駅に着いた。私よりも先に隊長が先頭の車両に近付く。
(見つけたのかな?)
身長の低い私では人波に埋もれてしまいそうだった。
「ヴィルヘルム・ロスだな」
ステッキをついて白いシャツを着た初老の男性に隊長が詰め寄った。
「貴様にはメトラタからのスパイ容疑がかかっている。」
既に銃口は彼に向けられていた。
「大人しく連行されてもらおうか」
「……何の事やらわかりませんな」
ヴィルヘルムが肩をすくめる。いたって普通の、時折異国の料理を教えてくれた向かいのおじさん─
「おや、レガリアちゃんおはよう」
声をかけられた。
自然な様子で、朝出会う時のように。
「……レガリア、知り合いか?」
隊長の意識が、ほんの少しこちらに寄ったその瞬間だった。
ヴィルヘルムが、持っていたステッキを地面にたたきつけた。
辺り一面が、目もくらむような閃光に包まれた。
そして数発の銃声。
一般人の悲鳴が辺りに木霊する。
「クソッ!逃げたぞ!」
私は閃光をまともに見てしまったせいで視界がくらくらしている。
「レガリアッ!ロック達のいる方向だ、ついてこい!」
「まっ待ってください、目が見えないんです……!」
返事は無い。
私もすぐに向かわなければ後で地獄の反省会だ。
イストサイン駅は広いが作りは単純だ、ホームが三つ、出入り口は2つ。
「うわー……えらいことになってる……」
出口の一つ、ロックさんとエドガーチームのいる方向は人が押しあい、結構な騒ぎになっていた。
「逃すな!」
隊長達が追いかけている。銃声まで聞こえる。
「……ロスさん、脚速いなー」
ヴィルヘルム……私にとってのトーマス・ロスは凄まじい脚力で駅から遠ざかっている。
(あの老体でどんな体力してるのよ)
とりあえず追いかけないと後が怖い。
駅から出ようとした時だった。
もう一つ、見覚えのあるシルエットを見つけてしまった。