下手に帰る期待持つよりもう泊まり込むって意気込みで仕事するのが気持ちも軽くなります:2
がたがた、ごとごと、漆黒鉄を乗せたトロッコが坑道を進む。
陽がすっかり落ち、入り口付近は真っ暗だ。
村長がいるから夜道も安心なはずだ、村に着けばすぐ列車に乗って帰れる。
「あのー騎兵さん方、漆黒鉄の鎧ってことはこれ騎士様の物か?」
「そうだ」
「どうしてこんな物が俺たちの炭鉱にあるんです?」
「……私達が追っている騎士は後ろ暗い事をしていたようでな、ここは奴の潜伏先だったんだろう」
「後ろ暗い事って……何です」
「メトラタへの亡命」
村長の顔が少し青ざめた。聞かなければよかったという様子だ。
「よし、戻ってきたな。レガリア、これ鞄に詰めるぞ」
「全部入ります?」
「重いがなんとかなるだろう」
お互いの鞄に入るだけ漆黒鉄の破片を詰める。
「ギリギリだな」
一部分とはいえ漆黒鉄の鎧だ。鞄の底が今にも抜けそうである。
「まあ、この程度なら問題は……誰だ」
隊長が鋭い声をあげ、拳銃を構えた。
『それ』を見た瞬間、記憶が蘇る。
あの峡谷の底で見た、赤黒い翼──
(グラドミス……!)
鎧を着た騎士グラドミスの背から、翼が大きく伸び上がった。
瞬時に、彼から伸びた何かに首をつかまれた。
「がっ!」
「レガリアっ!」
隊長の呼び声が聞こえた。
だがその時には私の体は宙に浮き、炭鉱の入り口にグラドミスが翼を叩きつけていた。砂埃が舞い上がり、入り口に土砂が降りる。
「影が一つ潰れたのを感じた。ロスがここに戻ってきたかと思えば、例の騎兵殿じゃあないか」
騎士グラドミスが私の首を異形の手で掴みながら私の顔を覗き込んでくる。
真っ赤な眼が爛々と輝いている。
「これで殺しに行く手間が省けた」
「うぁ……がは……」
首にかかる力が強まる。
痛みは感じないが呼吸が出来ない。
「まだ死なないのか?侵食されて不死身にでもなったか?」
手は自由に使える、片手で抵抗する素振りを見せ、銃を持ち──
「……ほう」
何発かの銃弾を異形の腕、その付け根近くに叩き込む。
首を絞める力が少し緩む、異形の腕だが鎧には覆われていない、多少は効いたようだ。
だが、今度は地面に投げ落とされた。
私1人軽々と持ち上げられる巨大な腕だ。そのまま何度も叩きつけられ、流石に頭がくらくらする。
「気絶すらしないのか、丈夫だな」




