下手に帰る期待持つよりもう泊まり込むって意気込みで仕事するのが気持ちも軽くなります:1
色鉄の加工には、それなりの設備がいる。
原石を溶かす為の炉、火を炊く釜、不純物を取り除く転炉と、どうしても規模が大きくなる。
そもそもかける熱や圧力によって性質を変える色鉄は目的によって精製法を変える必要がある。
「間違い無いな、ここで色鉄を作っていた」
しかしこの炭鉱跡地に据えられた設備は最低限だ。まあ銃を一丁作るだけならこの程度の設備で良いだろう。
小さめの釜戸に工具の置かれた机、灯りは緋鉄のランタンで、なかなか高級なものを使っていて明るい。
(……部屋中の血痕さえ無かったらな)
隠れ家的ないい雰囲気だったかも知れないが台無しである。
「何にせよ手がかりだな。レガリア、カメラに収めておけ、それと何かグラドミスやロスに繋がるものを探してくれ」
「了解です」
とりあえず全体図と機材の写真を数枚撮る。
「いつ作ったんだこんな場所……」
村長が頭を抱えている。無理もない、自分の管轄内に預かり知らぬ設備が出来ていたのだ。
「隊長、感光紙あるだけ撮りました」
「ご苦労レガリア……これを見てみろ」
隊長が炉の前に据えられた鉄の机で何かを差し出してきた。
「なんです隊長……それは?」
彼女の手にあるのは漆黒の破片、間違いなく漆黒鉄だ。
「一つではではない……鎧の腕一本分はある」
「漆黒鉄の鎧……?」
記憶が蘇る。あの日グラドミスに銃を向け、引き金を引いた後彼の腕──漆黒鉄の手甲は木っ端微塵に吹き飛んだ。
「もしかして、グラドミスの鎧の破片……!」
「事故現場では漆黒鉄の欠片も見つからなかった。拾い集めてここに隠した、と言ったところか」
漆黒鉄の鎧は騎士の代名詞のようなものだ。その破片がここで見つかった。
「……イストサインの技術者ならなら照合できる。奴に突きつける証拠にピッタリだな」
「……やった!早速持って帰りましょう!」
「そうだな、トロッコに乗せるか。村長、これ運ぶの手伝ってくれないか」
「お、はいよ。騎兵さん仕事はこれでおしまいかい?」
「そうだな、ただこの場所に関して報告書を作ってもらいたい」
「ああはい、わかりましたよ」
正確な時刻は不明だがまだ列車は走っているだろう。少なくとも村に泊まる必要はなさそうだ。




