心が疲れたらとにかく寝た方がいいとは思う、寝ようとすると嫌な思考が止まらなくなって眠れないのは脳のバグだと思う:2
列車から降り立った頃は昼過ぎ、実に半日列車にいた事になる。
「へー、これがマルスサイン」
「どうした突然、何度も来たことあるだろ」
二人分の大荷物を持つエドガーが軽く指摘してくる。
(レガリアにとってはね)
奥野塔子にとっては初めての街だ。
マルスサイン、王の治めるイグドラの中心であり、最も歴史のある都市。色鉄の技術もここを中心にして発達したという。
(観光したい!)
浮き足立つ心を抑えきれない。
歴史的なイメージに変換すると18世紀ごろのヨーロッパと言うべきだろうか、煉瓦造りの歩道や建物は教科書の資料集で見た街の雰囲気と同じだ。
「次はどこ行くんだっけ?」
「とりあえず本部な、今日は自由時間あるか怪しいぞ」
道案内は全てエドガーに任せ、彼の後について行く。
(やっぱりそこらじゅうに色鉄があるなぁ)
街の街灯、建物の装飾、道行く人々の装身具にまで、独特の光沢を持つその金属は使われている。
色鉄、それは私の生きていた世界とこの世界の明確な違いだ。
用途によって分けられる四種類の加工先がある金属。
ただの金属ではなく、加工式と呼ばれる細工を彫り込むことで何らかの機能を発揮する。
エドガーが煙草に火を付けたライターも『熱を持つ』という意味の細工を色鉄に彫り込むことで機能している。
好奇心が刺激された。背の低い灯り、色灯と呼ばれているそれに近づく。
「おーーい、レガリア」
(考えてみれば、鉄になんか彫るだけで燃えたり爆発したりするのってヘンじゃない?)
「レガリアァ?どこへ行くんだぁ?」
(私が異世界人だからわからないの?こっちの人にしかない感性とかで伝わるの?)
「アァン?」
(言葉はわかるけどそういうのはやっぱりレガリアじゃないと……)
「テメェこのヤロウ」
つむじのあたりを掴まれた。
「あら、ごめんねエドガー」
忘れていた。
引き摺られるようにしてエドガーとやってきたのは騎兵隊の本拠地である。
「イストサイン支部から来ました。エドガーとレガリアです」
門の近くの受付に手帳を見せる。
「ああ、聞いてます。どうぞ入ってください」
(イストサイン支部よりずっと大きいな)
まあ。あそこは既に潰れてしまったが。
流石に中央都市の建物となれば規模は広い。宿舎も敷地内にあり、私とエドガーもここに滞在することになっている。
(視線、感じる)
歩きながら『レガリア』に対する注目を感じた。
通り過ぎる騎兵、横切る騎兵、遠巻きに私を見る騎兵。いろんな場所から騎兵がちらりと自分を見るのだ。
(嫌な気分じゃないけど、ちょっとうんざりするわね)




