火傷の痕:5
泡と蒸気が視界を塞ぐ。原石銃に触れた水が蒸発している。
(奴が見えない……!)
ただでさえ水中で泡と蒸気まみれの状態で照準をつける必要がある。
(無理!)
リーパーに抑えられた身体は奴と共に沈んでいく。
『レガリア、銃を向けて』
塔子の声。
『私がリーパーの音を拾ってる、そこ目掛けて撃って!』
塔子の伝える方向に銃を向ける。
『今よ!』
原石銃が発射される。
悲鳴が、頭に響く。
(リーパーの、原石武器の声、か)
原石武器に宿った命が砕けていく。痛みを訴えるその声の中には、なぜか喜びの感情が感じ取れる。
私を抑えるリーパーの腕からは徐々に力が抜け、身体は崩壊を始めていた。
(……まだ、生きてる)
まるでしがみつくように、リーパーの手は私を掴んでくる。
(不思議だな)
心は死にたがっていたのに、身体は生きようとしている。けれど奴の力も長くはなく、服の襟にすっかり小さくなった手が引っかかるだけとなった。
(ざまあみろ、私は怪物になんてならないぞ)
ほっと一息つこうとした。
「……ごぼぼ!!」
忘れていた、私は今川の底にいるのだ。
水を吸ってしまった身体は重く、意識が朦朧とする。
(え……どうなるの……)
溺れた経験はない。
(死んじゃうの……?)
死んだらどうなる。
(……隊長はどうなったんだろ)
曇る視界の中、水面を見上げた。水上の明るさがひどく眩しく思えた。
◇
「塔子が死んだら、私悲しいよ」
喫茶店の席でそう言われた。
「……うん」
何と返せばいいかわからなくなった。
「……まあ、うん、嬉しいよ、そう思ってくれるだけでも……」
彼女はしばらく私の顔を見て、額に手を当て、机に突っ伏す。
(なんかちょっと)
罪悪感が湧いてくる。昨日の私はどうかしていた。半ばヤケになったような気持ちでメッセージを打ち込んで、とりあえず彼女に会いたいとぶちまけた。
「ま、まあまだ余命どうとか決まったわけじゃないんだけど、けどアレ、暇な時とかあったらね──」
何かを取り繕うかのように言葉を続ける。
(そうか、私──)
自分のことを、家族以外の誰かに覚えていてもらいたかったのだ。




