火傷の痕:6
◇
誰かの声が聞こえる。
「コイツ、息してないのに心臓動いてる」
「では、生きてるってことですね。安心しました」
「そっちはどうなの?」
声の主が身体から離れる。
「生きてますよ…………こちらも、不死身のようなものですから」
「そっちが生きてるのも気味悪いわぁ」
「手当はこちらで」
「ちゃんと繋げておいてよ」
「君は、彼女を」
「……どーすんの」
「普通の蘇生法を……」
意識が薄れていく。
再び意識が戻り、感じたのは嘔吐感。水が口から溢れてくる。
「……ッ!うぇっ!」
「うわっ!」
眼を開けた瞬間、視界に入ってきたのはオリンピアの顔。
彼女は驚愕の表情の後。
「──オラッ」
腹に一発、殴打を打ち込んできた。
「────っ!!」
横を向く。お腹の底から水が逆流してくる。
「……一発かよ、本当にどうなってんだよお前」
「…………なんで……アンタがいるのよ」
咳き込みながら、重苦しい体をどうにか持ち上げ周りを見る。
サインエンドの、どこかの建物。バルコニーのある広い部屋だ。
「なんでって、ロスの手伝い」
オリンピアが指差した室内には、こちらもぐったりした様子のロスと、目を瞑るジルがいた。
「……どうもレガリアさん、今日は大変でしたね」
ロスは床に座り込んでいる。濡れそぼった、元は白かったと思しきシャツは血で真っ赤だ。
「ロス……さん」
聞きたいことがあった。
「…………隊長は?」
意味のない問いかけでも、聞かずにはいられなかった。
「……カティア君は」
「あの隊長さんなら死んだよ」
ロスの前にオリンピアが言い切った。
「死体もバラバラになったろうよ、リーパーに喰われて、そのリーパーはお前が消し飛ばしたんだから」
私を突き刺すようなオリンピアの返答。隊長はもう死んでしまったという事が私の心を抉る。
「…………」
何も考えたくない。
「泣いてんの?」
答えるのも億劫だ。
「…………ライオネル君、引き上げよう」
「いいのですかね?」
オリンピアが私から離れ、ロスの方へ向かう。彼に肩を貸して立つ手助けをする。
「放っておけば治るよ、この女は」
「……レガリア君」
ロスの呼びかけに頭だけで反応する。
「また会いましょう」
片手だけ挙げる。ロスとオリンピア、二人が去った後聞こえるのはジルの寝息だけだ。
遠くから、人の声が聞こえる。
バルコニーの方に出て、柵に手をかけ辺りを見る。私たちは結構背の高い建物にいたようだ。
(騎兵が集まってきてる)
私がリーパーと、オズワルドと戦った場所がよく見える。
周囲の建物と歩道には破壊と肉片の痕。騎兵が集まって調査を始めたところらしい。
(戻って、話しに行かないとな)
「…………」
音に背を向け、部屋の中に戻る。
「……ここ、は?」
ジルが目を覚ましていた。彼女の服も血に染まっているが、彼女自身に怪我はないようだ。
「サインエンドだよ」
「…………騎兵さん?」
「そうよ、前に会ったわね」
彼女の顔左半分は皮膚が削げたままだ。
ジルは、何かを探すように部屋の中を見渡す。
「……リ……リーパーは……?」
「退治した」
聞きたくない名前を聞いた。
「もう貴方の中にも、どこにも奴はいない」
そう言うと、ジルはどこか悲しげな顔になった。
「なんか、変」
「……なにが?」
「あんなに、怖かったのに……あんなに……辛かったのに」
切れ切れな声、涙声になっていく。
「居なくなったら……寂しいの」
ジルは顔に手を当てながら静かに泣き始めた。
「……そうね、私も悲しい」
左手を見る。手の甲には白く歪んだ火傷の痕が残っていた。




