火傷の痕:3
「……怪物?」
少なくとも、そんな身体にはなりたくないが。
「私もね、今はこんな身体だけど。昔はちゃんと人間だったのよ」
リーパーの顔には皮膚がない。即席で作られた黒い外套は血で滑っているし、ちらりと見えた顔面には剥き出しの眼球が浮いていただけだった。
「私は人生を奪われた」
今、リーパーの声音は落ち着いている。けれど、奴がいつまた爆発し暴れ出すか、予想がつかない。
「奪われて、私に残ったのは……」
リーパーの腕が脈打つ、浮き出た血肉の塊が膨れた。
「これだけ、か」
彼女の腕は小刻みに震えている。
「レガリアさん、あの子は私が」
小声でロスが私に耳打ちした。
リーパーの背後に居るジルを見る。立っているが意識はない様子だ。
原石銃は未だに強い熱を持っている。
「レガリア」
リーパーが私を呼ぶ。
「貴女は、まだなりきれてない」
さっきより体積の増えた身体で、右手をこちらに構えながリーパーは喋る。
「私が、貴女を怪物にしてあげる」
奴の右手から血が吹き出した。酸を含んだ血が歩道をボロボロにしていく。
隊長を庇いながら飛び退いた。
「……私はいい」
弱々しいが、カティア隊長の声には芯が通っている。
「──行きます」
原石銃を構えながらリーパーへと突っ込んだ。奴も触腕を飛ばしてくる。それを鉄糸と、銃身に糸を巻いて作った短刀で切り裂き進む。
(ジルは──)
目の端でロスがジルを確保する姿を確認する。
(今なら、奴を)
リーパーを破壊できる。今、奴は目の前に居る。照準を顔に合わせ、引き金を──
『待ってレガリア!』
塔子の声が頭に響き渡った。
「────ッ、なに!?」
『コイツは原石武器じゃない!』
思いがけない塔子の言葉。引き金を引く寸前に思い留まり、私は血肉の巨人に鉄糸と刃を突き立てた。
『例の音……原石武器の心音はあっちから……』
「これ……」
血肉を引き剥がすと、白髪の子供が出てくる。
「ジルちゃん……?」
呼吸はある。
「──レガリアさん!」
ロスの大声、そして空気を裂く遠吠え。
さっきまで少女の形を取っていたリーパーが、再び姿を変化させていた。今は、四足歩行する血肉の獣。
そいつは抑えかかったロスをいとも簡単に跳ね飛ばし、カティア隊長の方へと向かった。
「っ……!ダメだ!カティアくん!!」
その光景を私は眼で追っていた。
血肉の獣──正面に仮面を付けたリーパーは隊長へ猛然と飛び掛かる。
片膝を立てる隊長は私達の声に反応していた。辛そうに顔を上げ、迫るリーパーを睨みつけている。
隊長の元に急ごうとするが、血肉の巨人の腕が私を阻んだ。
「──隊長!!」
隊長が私を見た。彼女の口角が若干上がる。
その瞬間、リーパーの巨体に彼女の姿は塗り潰された。
血肉の巨人の身体を削りきり、ジルを助け出す。ほとんど裸の彼女に上着をかけてやり、隊長のいる場所に向かう。
けれど、そこ場にいる隊長はすでにリーパーによって身体を食いちぎられていた。顎と牙の間から、隊長の首から上が見える。彼女の瞳は開いて、敵に向かう鋭さは未だに有った。
「お前」
その瞳の強さに、私は憧れていた。
「お前ッ──!!」
衝動が、私の全身を貫いた。




