職場に一人でいるとどうしても周りが見えなくなる。自分だけでなんとかしないとと思ってしまう:5
◇
レガリアの目の前でリーパーが腕から異形の顔を生やした。
「──っ!」
今までは軽く血肉の触腕を飛ばすだけだったリーパーの新たな行動に対し構える。
だが、攻撃は当たらなかった。
「え……?」
リーパーが恐竜の顎を放った先を見る、一直線に飛んだ先、そう遠くない距離にはロスがいる。
「──危ないっ!」
叫んだが、ロスの身体は既に血肉の顎に押し潰されていた。
(そんな──)
「次は、お前だよ」
私の耳にリーパーの声が響く。
次いで何らかの衝撃、呆然としていた『私』には対応できない攻撃を奴から受けた。
『レガリア!しっかりしなさい!』
身体が勝手に動いている。塔子が血肉の触腕を鉄糸で断ち切っていた。
ロスの上に覆い被さる血肉の顎は、彼に牙を突き立てようとしている。
(助けないと)
動こうとした私の腕にリーパーが放つ血肉が絡みつく。
「邪魔!」
原石銃の糸はリーパーの腕程度なら一蹴する。距離を詰め、原石銃でロスに噛み付く顎の破壊を試みる──
「──がっ!」
顔面に強烈な一撃が飛んできた。
「お前、不死身なんだってな」
慣れ親しんだ、だが聞くたびに背筋が冷える、カティア隊長の声だ。
「オズワルド……!」
原石武器に侵食された様子の籠手による打擲。受け身も取れずその場に倒れるが痛みはない。
だが目の前にいるのは自分の隊長ではない、その身体を乗っ取ったメトラタの『悪魔』だ。
(倒さないと……)
違う、倒すじゃダメだ。
「この女も時々お前の殺し方について考えてたみたいだぞ」
オズワルドを──カティア隊長を殺さねばならない。
「まずは、こう」
突然、目の前が真っ暗になった。
次いで衝撃、最近どこかで同じような経験をした気がする。
(オリンピアにやられた時か)
ほんの少し、現世から意識を切り離してみる。
(私を殺す方法なんて、物騒なこと考えてたんだな隊長)
騎兵隊に入隊してから、私はずっと彼女の下で働いて来た。
確か初日に挨拶以外の言葉は全く無かった。
(母さんのこと聞かれたのは一週間くらいしてからだっけ)
休憩時間に顔を合わせる時は同じ事ばかり言われた。それ以外の会話を思い出せない。
(そんなに仲良くなかった?)
そもそも進んで会話したいとか思わない。怖いし。
苦手意識を払拭出来た気がするのは私が原石銃を手に入れてからだ。
(格好いいとは思ってたけど……)
意識を現世に戻す。
隊長の銀色の瞳とにかく鋭い、だけど今は──
(濁ってる)
何というか焦点が合っていない。隊長はいつも真剣で、こんな退屈したような眼で人の頭を潰そうとはしていない。
(隊長、気合いが入ってないな)
これは上司に一発ぶちかますチャンスなのかも知れない。




