職場に一人でいるとどうしても周りが見えなくなる。自分だけでなんとかしないとと思ってしまう:4
「……ロスさん、あの口調には覚えがあります」
ロスの隣でレガリアが言う。
「アイツはきっとオズワルドです」
「オズワルド、メトラタの『悪魔』か」
「さっき、『武器』は壊したはずなのに……」
「乗り移ったというのなら、リーパーと同じだ」
納得した様子でロスが続けた。
「原石武器と言っても装備としてあるとは限らない、臓器の一部になっている物もある」
「臓器……?」
「皮膚であれ腕であれ脳であれ、身体に原石を宿せばそうなる」
問題は、とロスは続ける。
「オズワルドは何に宿っているかだ」
リーパーが血肉の塊を発射する。
「レガリアさん、リーパーを任せました!」
声と共にレガリアとロスは散会する。外れた肉塊は地面に撒き散らされ、酸による傷跡を歩道に残した。
「カティアくん!聞こえますか!?」
オズワルドの右腕に杖を振り下ろしながら、ロスは声を張り上げた。
「貴女ほどの人が、メトラタの原石武器に乗っ取られはしないでしょう!」
ロスの打撃をカティア──オズワルドは軽く避けながら、籠手から赤黒い鉄糸を伸ばした。
「お前だけは、本当に信用できないな」
苛立ちまじりに溢しながら、五指から伸ばした糸を横一線に薙ぐ。
「それなりの付き合いみたいだが、この女も根っから信用してた訳じゃなかったようだぞ」
糸から迸った赤黒い血液が歩道に滴り、薄っすら煙を立てる。
「しかし、メトラタ裏切りながらイグドラでも大層嫌われてるようじゃねぇか?一体どこまでやる気なんだ?」
跳躍し糸の一閃を避けたロスは杖から仕込み刀を抜刀する。
「最後まで」
杖先を左手に、抜刀した仕込み刀を右手に、ロスはオズワルドに斬りかかった。
仕込み刀による斬撃をオズワルドは籠手で弾く。何合か打ち合った後、オズワルドの左肩が裂かれた。
鮮血が飛び散り、歩道を濡らす。
しかし、血が走った瞬間ロスの動きが鈍った。
「──もらった!」
オズワルドの右腕がロスの刀を鷲掴みにする。
「っ……!」
退こうとする彼の腹に、オズワルドが拳銃を撃ち込んだ。
「うぐ……!」
三発の銃弾を腹に受けるが、ロスは力任せにオズワルドの手を振り払う。
(普通の銃弾ではない……)
蒼鉄製の胴当てを身につけていたおかげで貫通はしていない。だが弾を受けた腹は尋常ではない熱を感じている。
(銃は騎兵が使う一般的な物……)
先程オズワルドが放った糸から滴った液体が歩道を焦がしたのをロスは思い返す。
(血液か)
彼の中で、オズワルドの原石武器の検討がついた。
(私が正しければ、カティアを救うことができる)
歯を食いしばりながら、ロスが刀を構えた瞬間。
横から飛び出して来た一対の顎がロスの身体に噛みついた。
「──がぁっ!」
彼にとっての意識外からの攻撃。
(リーパーが、こちらの戦況を把握している様子は──)
オズワルドとの戦いに注力していたが、ロスはリーパーにも注意を払っていた。
レガリアはトドメを刺せないながらもリーパーを足止めしている様子だったが。
(生命の接続による連携……!)
彼に思い当たったのは、メトラタの原石武器が持つ機能の一つ。




