明日も休みなので何時まで起きてても問題ないの:3
「前から思ってるんですけど、ロスさんってどういう立場にいるんですか?」
我慢しきれない様子でレガリアが疑問を口にした。
最初は隣人、次にはメトラタからの刺客としてレガリアは彼と対峙した。けれど一時は共同し、今はメトラタから来る脅威について話し合っている。
「個人的な協力を確約してくれるなら、いくらでも話して差し上げますよ」
ある種の期待を込めた様子でロスは返す。
「…………」
「中途半端なヤツ」
返事を返さないレガリアにオリンピアは吐き捨てる。
そのままレガリアとオリンピアは剣呑な目付きで睨み合っている。ロスがここに来るまで、お互い散々言い合っていたであろうことは彼の想像に難くなかった。
「オリンピア、こっちでは何があったんですか?」
ロスに促され、オリンピアとレガリアはイストサインで起きた数件の事件、そして今日出会った仮面の女について話した。
「……レベリオに、血肉を操る仮面の老女……ふむ」
ロスは興味深げに眉を顰め、顎に手を当てた。
「レベリオってヤツについては騎兵の方が詳しいんじゃない?レガリア、そいつ殺したの?」
「言いたくないわ」
「ほらねー、これだよロスぅ」
「…………レガリアちゃん、リーパーは仮面の女です」
ロスは思案する姿勢のまま告げた。
「えと……確かですか?」
「ええ………原石で出来た頭蓋の仮面、身体から溢れる血肉、老人と思しき声……13年ほど前に私が殺したヤツと特徴が同じだ」
「貴方が首落としたっていう殺人鬼……ですか」
以前ロスが語っていた、人の命を奪う『武器持ち』。
レガリアは思い出す。仮面の女から溢れ出ていた指向性を持つ血肉たち。それらはまるで傷を癒す為増殖する細胞のようであり、増えた端から剥がされ、捨てられ死に行く老廃物のようだった。
命を奪うと言うのが殺人の比喩でないのなら。リーパーは文字通り他人の命を喰って、力の糧にしている。
「……認識を改めるべきですな、首を落とした程度では、『武器持ち』は死なないと」
ロスが手に持つ漆黒の杖──原石製の仕込み杖を強く握りしめる。
「しばらくの間、サインエンドをしっかり見張らないと……ヤツは他人の命を食って生き永らえている……迷子になったという女の子は?」
「ああ、ジルなら日が沈んだら帰ってきたよ、院長に説教されてた」
「それならいい……被害が出るなら後はホームレスや移民……不法滞在者だ」
「でたでた、イグドラで居なくなって問題ない人達代表」
オリンピアは皮肉っぽい笑みを浮かべる、その眼は全く笑っていないが。
「オリンピア、君もリーパー探しを手伝ってください、絶対にメトラタの悪魔や、レベリオと接触させてはいけない」
「そいつら出会ったら、この辺はどうなる?」
「第四次二国大戦です」
「だってよ」
レガリアを横目で見るオリンピアの顔は「お前はどうする?」とでも言っているようだった。
「リーパーに関しては……まあ騎兵に任せておきますか」
ロスがレガリアを一瞥する。
「少なくとも、そっちは騎士さんと共に事に当たってもらいたいですね」
「…………善処しますよ」
「頼みます、では私は休ませてもらいますよ」
そのままロスは部屋を出る。
そんなロスの後ろにはレガリアが付いてきていた。
「ロスさん、待って」
そのまま別の部屋に行くのかと思いきや、彼女はロスに声をかけた。
「聞きたいことがあるんです」
「いいですよ、答えられる範囲でなら」
隣人と世間話をするような声音でロスは答える。
「……教えて欲しいんです、原石武器がどうやって作られてるのか」
ロスの表情が複雑な翳りを見せる。
「貴方なんですよね?この銃作ったのは」
「ええ、その通り」
声音は少し硬くなったようだった。
「ロスさんはこの銃を作る時、何を──」
「今は、言えない」
ロスはレガリアを遮った。
「……原石武器について、国内で情報開示があったのは私も知っている、けれど、やはりと言うべきか、肝心な情報は伏せられた」
知られたくないんでしょう、と彼は続ける。
「レガリアちゃん、君はこの国の秩序側の人間だ、だが我々はそれを壊そうと動いている、君たちがこの国──女王側に属す限り相容れない」
「……私が立ち位置を変えない限り、教えてはもらえない、そう言うことですね」
レガリアはロスの言葉を理解してはいるが、不服そうである。
「きっとそのうち、選ぶことになる。君には明るい道を歩いてもらいたいものですがね」
ロスの言葉を聞き、レガリアは少々肩を落とした後背後のドアを開け部屋へと戻った。
「……そっちに戻るのか」
レガリアとオリンピアの険悪な空気を受けていたロスは、少々困惑気味につぶやく。数秒もしないうちに二人の言い合いらしき声が聞こえる。
オリンピアが突っかかり、レガリアが言い返している様子だ。お互いなじりあっているようだが、一線を超える雰囲気はない。
「……あれで、相性は悪くないのかも知れないな」




