明日も休みなので何時まで起きてても問題ないの:1
サインエンドの夜は暗い。
ガス灯の普及しているイストサインだが、深夜でも足元が見えるのは表通りの一部と貴族街のみである。中でも開発の遅れがちな貧民街では一寸先すらも見えない。
そんな暗闇の中を、灯りひとつ持たない人影が一つ歩いている。
長い白髪を後ろに纏め、漆黒の杖を持った老人が、レラント孤児院と標識に書かれた建物へ音もなく入った。
そのまま勝手知ったる様子で2階に赴き、ある部屋の扉を3度ノックする。
「開いてるよ」
返す声はオリンピアの物だ。そのまま老人は扉を開く。
「ただいま戻りましたよオリンピア」
「おかえり、ライオネルくん」
「…………誰?」
室内で耳にするオリンピア以外の声の主の方へ、ライオネルと呼ばれた老人は顔を向けた。
「……驚きましたね、君がいるとは」
ベットに腰掛ける見慣れた金髪のオリンピアの向かい、窓側の椅子に灰色髪の少女が腰掛けている。
「いや……誰よ貴方…………あー」
目を凝らして長髪の老人を見た灰色髪の少女──レガリアは一拍置いたあと納得した様子で彼の正体に思い当たった。
「ロスさん」
「大正解」
ライオネルが長髪のカツラを取る。
そこにはレガリアのよく知るロスの姿があった。
「どうもこんばんは、これはライナーグループとして活動している時の姿でね、ところでどうしてレガリアちゃんがここに?」
「その話は後にしてくれよ、そっちの報告を先に聞きたい」
「いいですが……」
ロスがレガリアを見る。
「まあ……君に聞かれてもいい事だけ話しましょう」
「そいつオフの日だから何喋ってもていいってよ」
「そういう訳にも……」
「ロスさん、聞いたことはだいたい隊長にも報告するからね」
「ああもう……」
ロスは眉間に皺を寄せ、天井を見上げた。
「巻き込みたくないって言っても、今更だろ」
「……………それも、そうか」
意を決した様子でロスが顔を上げる。
「『武器持ち』が一人、メトラタを出ました」
「……へぇ」
「戦時中、こちらで『悪魔』と呼ばれていた奴です」




