ネガティブを打ち消すのはポジティブではなく、没頭である。どっかのお笑い芸人がそう言ってたと彼女は教えてくれた:5
「何者?どうして私を知ってるの?」
仮面の老女は笑い声で返事をした。陰気なしわがれ声が腹立たしい。
「ねえ、レガリア」
まるで友人に話しかけるように女は言う。
「レベリオがどこにいるか、知らない?」
確信した。この女はメトラタからやってきた。
そして──
(私の敵だ)
原石銃の鉄糸を飛ばす。長袖の服に隠れているが、敵の腕に絡ませそのまま動きを封じようとする。
「──っ!?何!?」
老女の腕が突然肥大化した。はじけるような音と共に腕から赤い塊が放たれ、路地を覆うように広がりだす。次いで聞こえてくる肉が這い進む耳障りな音と、粘性の高い血の滴る背筋の凍る音。
(気味が悪い……)
糸を放し、交代する。グロテスクな光景だ、あの肉の塊を触りたくないし視界に入れたくもない。
「教えて、くださいな」
血肉の壁は脅すように私に迫ってくる。
原石銃を撃って、家屋に穴をあけるわけにはいかない。鉄糸を飛ばし、正面や壁を這う肉片を切り裂いていく。鉄糸をしならせ、肉塊と血溜まりを切り裂く度に生暖かい欠片と鉄臭さが鼻をつく。
「うぇ……ゲホッ……」
臭い、ただ血の匂いだけじゃない。腐敗臭、死臭とも言える腐った臭いを直に吸い込み、頭がくらくらし始めた。
「レベリオはどこなの?レガリアさん」
少しずつ、押され始めた。私が斬る速度よりも敵が肉片を再生させるほうが速い。
「……ぅぅっ……死んだ!」
「嘘」
こちらの発言を一蹴する。
「私たちは、繋がってるの、教えてレガリア、でないと……」
眼前で蠢いている血肉が形を変えた。一つの形を形成するように血肉が練られていく。
今や私の真正面、小さな道を塞ぐように大きな人面が出来上がっていた。筋肉と血でできたグロテスクな人の顔。それが血の溜まった眼窩で私を見つめている。
「飲み込んでしまうわよ?」
血液の歯で、筋肉の顎で私を飲み込もうとしている。




