ネガティブを打ち消すのはポジティブではなく、没頭である。どっかのお笑い芸人がそう言ってたと彼女は教えてくれた:4
腰のあたりで鼓動が響く。
「……んげっ」
人生について思いを馳せていると、腰に提げた原石銃が心音を鳴らしていた。
(誰か原石武器使ってるヤツいるな……)
距離的にファルナやレベリオではない、知り合いで思い当たるとすればオリンピアかロスだが銃はそこまで教えてくれない。
「どっち?」
例のごとく
見つけた原石銃の糸は導くように方向を示す。
(ジルの事も心配だけど……)
休日を満喫していた矢先だったが、一度気付いた以上確かめずにはいられない。
(人生、迷子探し程度の仕事だけしていたかったです……)
まあ、思うようにいかないのが人生と言われればそれまでなのだが。
二軒の屋根を飛び越えた先に反応の人影はいた。屋根伝いに移動すると速い、地上は入り組んだ迷路になっているのだ。
反応の真上まで来た。下を見ると黒い外套を着こんだ巨体が狭い道を歩いている。
(知ってるヤツでは……ないわね)
人相を暴かれたくない為か、顔がすっぽり収まるフードをかぶっている。さっき見た葬儀屋を彷彿させるシルエットである。
どちらにせよアレは私の人生に黒い影を落とす奴だ。こそこそこんな場所を歩いている時点でイグドラの騎士ではないのは確かだろう。
(一応、どんな奴か確かめに行こう)
ある程度の距離を測り、正面ではなく背後に降り立てるように軸を合わせ、地面めがけてジャンプする。
石畳の上に手と膝を付く。体感では思いのほかずどんと響いた。なんだか自分が重く感じられて恥ずかしい。
黒い影はこちらに気づいた様子だ。足を止め、顔を傾ける。
私は原石銃を構え、胴体を狙った。
「こんばんは、原石武器の持ち主さん。そのままゆっくりこっちを向いてくれる?」
黒い巨体は素直に身体を向けた。
その顔を見て目を見開く、完全に骸骨──白銀に輝く髑髏が奴の顔だった。
「っ……!」
グロテスクな骸骨の面に狼狽している場合ではない。よく観察すれば鉄製の仮面だとわかる。奴が着こんだ黒い服の丈は異常に長く、手は服の袖に完全に収まっている。
突然、髑髏の巨体が緩慢に腕を上げ始めた。だらりと垂れ下がる袖が少しずつ上がり、私は身構える。
その動きが一点で止まる。
そのまま私を指さして──
「レ、ガ、リ、ア」
名前を呼んだ。
低くしわがれた老女の声。こんな声の知り合いはいない。




