ネガティブを打ち消すのはポジティブではなく、没頭である。どっかのお笑い芸人がそう言ってたと彼女は教えてくれた:2
「うわっ!」
「どわっ!」
急ぎ足で孤児院の門扉へと進んでいると誰かにぶつかった。
「ごめん!大丈夫……?ヴァンくん」
相手はヴァンだ。お互いつんのめっただけで転んではいない。
「大丈夫だよ、ところでジルのヤツみてない?」
「見てないわ」
埋葬を終えて別れてからそれっきりだ。
「アイツすぐふらふらどこかへ出て行っちゃうんだ。探すの手伝ってくれよ」
断る理由は特にない。治安の悪いサインエンドで女の子を一人で歩かせるのは危険だ。
「……しかしあの子、放浪癖でもあるのかしら?」
初めて出会った時は臆病な子だと思っていた。酸性の怪物に襲われるなどという、遭遇した恐怖を思えば無理もないのだが。
「探検が好きなんじゃねぇの?昨日の夜消灯時間過ぎても出歩いてて院長に怒られてた」
ジルの思考に思いを馳せる。
(もしかしてあの子……父親を捜しに行ったんじゃ……)
時刻は夕刻、空は茜色だ。
「手伝うわ、ヴァンくんは孤児院の中をお願い、私は外を見てくるから」
「俺も外に……」
「もう日が落ちるわ、危ないから中に居て」
エドガーの肩をポンとたたいて、院内に戻るよう促す。
「レガリア、どうした?」
丁度良く帰りがけのカスピアンもやってくる。さっきの事は忘れよう。
「迷子です、捜すの手伝っていただけます?」
放浪癖に探検癖がついていても子供の足、そんなに遠くには行っていないだろう。
カスピアンと私の意見は一致していた。
大きな通りを見渡し、時には小道を覗く。所々で聞きこむ。
「白い髪で顔に包帯を巻いた子なんですけど……」
「見てないねぇ」
同じような返事しか返ってこない。
(特徴的な子だと思うんだけど……)
日が陰りだす。そのうち街灯も点かないサインエンドの小道は完全な暗闇になってしまう。
(どうにか孤児院近くの範囲を見渡せれば……)
サインエンドの街並み、背の高い建物が小道を作る厄介な構造。
ふと、昨日オリンピアが私の前に現れた時を思い出す。
腰に提げた原石銃に触れる。今日の色は緋色、銃から伸びる鉄糸は私の意志で動いた。




