ネガティブを打ち消すのはポジティブではなく、没頭である。どっかのお笑い芸人がそう言ってたと彼女は教えてくれた:1
「ふう、よっと」
レラント孤児院に入り、居心地の良さそうな部屋のソファに腰掛ける。昨日オリンピアが座っていた場所だ。
(ちょっとだけ、元気になったかな?)
家でごろごろだらだらするつもりが塔子に連れ出され、甘いものを食べて埋葬を手伝った。
『身体動かしたらさ、気分が晴れたでしょ』
得意げな塔子の声。
悩みの火種はまだどこかで燻っているが、作業に没頭していると距離を置けたような気がする。
『わかりにくいよーその表現ー』
『気が紛れたって言いたいの』
少し間延びした彼女の声。少しずつ、塔子の感覚が薄くなっていく。
「塔子?どうしたの?」
消えていく彼女の感覚に不安を感じた。
「なんでもないよ、眠く……なっただけ……」
口の半分が勝手に動く。
「また会える?」
「うん……今日は……楽しかった……」
頭の半分を占めていた塔子の存在が薄くなっていく。
(また、一緒に出かけようね)
彼女は消えてしまったわけではない、私の中で眠りについただけだ。
「……ふふっ」
今日の外出は楽しかった。
私の頭の中には友達がいる。
産まれた時から私を知っていて、どんな時でも味方でいてくれる友達。
(次はどこへ一緒に行こうかな)
頭の中で計画を立てる。列車で旅をして王都の方に行ってみたりなんて──
「……おーい、レガリアよう」
「──はっ」
歯車仕掛けの人形のように、ぎこちなく声に顔を向けた。
いつからそこに立っていたのか、応接室の扉にカスピアンが立っている。
「俺……帰るから」
「は、はい」
しばしの沈黙、カスピアンの視線はどこか心配するような様子で。
「あのな、本当に不調なら俺から隊長に言っておくからさ、まとまった休みを──」
「けっ……結構です!お疲れ様でした!」
ばたばた手を振り、副隊長とすれ違うように応接室を出た。
(見られてた?だとしたらヤバいわよ!)
虚空に話しかけ、自分で自分に返事を返し、1人で笑い始める。私がそんな奴を見たらとりあえず通院を勧めるだろう。
「うぉぉーい!」
小声で吠えたが、焼き付いた羞恥心は剥がれなかった。




