物が語りかけてきたら病院に行けっていうけど、脳が勝手に喋り始めたらどうすればいいと思います?:1
イストサインはれっきとした都会である。
工業地帯であり、商人の行き来も盛ん。自然と人や物が集まり、娯楽も豊富。
「…………はぁ」
休日だというのに、ため息が出た。
ため息を吐くと幸せが逃げるなんて言う迷信を思い出し、今度は一気に空気を吸ってみる。
無為に休日を過ごすことに抵抗はある、けれど行動に出る意志がわいてこなかった。
『甘いものを食べるのです……!』
頭の中から声がした。
(なにいまの……)
二段ベット、いつも寝ている上の段から部屋中を見るが誰もいない。
なんだ今のは私の内なる衝動の声か。
『英国風アフタヌーンティーを出す店に行くの……焼き菓子とか紅茶とか出る場所に……聞こえてる?聞こえてるでしょ……!』
聞き覚えがある、塔子の声だ。
「話せるの?」
『話せたわ!なんかダメもとでもやってみたらできたわ!』
日中、それも昼過ぎに、こんな落ち着いた状況で彼女と話すのは初めてだった。
『レガリア昼食べてないでしょ?アンナさんも気分が参ってる時ほど食べなきゃって言ってるじゃん、だから甘いもの食べに行こうよ!私の為にも』
まくしたてるような言葉の羅列、少々頭が痛くなる。ちなみに母のアンナは買い物中だ。
「めんどくさ……ぐおぉ!」
頭の中に電流が走る。私の物ではない意味不明の思考が脳裏に流れ始めた。
『お、これも成功した。最近の私すごいね』
次第に思考は明瞭になる。どうやら塔子が私の脳を半分使って物事を考え始めたようだ。
「なにこれ……妙な気分……」
嫌な気分ではない、だが今度は妙な衝動が私の胸中を駆け巡り始めた。
「へへ、いいねレガリア、やっと現実でお話しできるようになったじゃん」
私の口が勝手に喋った。
(塔子、さすがにそれはやめて)
『ごめん』
少しずつ、乱れた思考が整頓されていく。
「いいわ、どこかの喫茶店にでも行きましょ」
胸中を満たす新たな衝動も理解できた。
これはきっと、塔子の食欲と、好奇心だ。




